99 強行突破!
少し興味が引かれたことがあった。
「何世代も? そんなに長生き?」
ニニは驚いた顔をしたが、あっさり教えてくれた。
「別に秘密じゃないから、教えてあげる」
「勿体つけないでよ」
「アンドロはもうほとんど製造されていないんだよ。私達もあなた達と同じように再生され続けて、存在しているの」
今、製造されているのは、もっと単純思考のアンドロのみ。
ニニやハワードのように高度な知能を持ったアンドロではない。
アンドロ次元でのみ活動しているロボット。
アンドロによって製造されているのだという。
「でも、アンドロの再生は、マトやメルキトの再生と少し違うんだな」
「どう違うの?」
チョットマは、自分には理解できないかもしれないと思った。
なにしろ、自分はクローンだし、再生経験もない。
「ちょっとだけ自由なの」
再生のタイミングは自分で決めることができる。
つまり、好きな時に生き直せる。
しかし、必ずしも、希望通りの仕事に就けるとは限らない。
「仕事場も、自分では決められない。原則は、それまで働いていた街」
「そうなんだ。知らなかった」
「でも、一番違うのは、時期かな」
「時期?」
「再生される先の時期」
これはもしかすると秘密かもしれない、とニニは笑った。
「時間を遡れる。大体、アンドロ次元と今いるこの次元は、時間のスピードがかなり違うでしょ」
「えっ?」
チョットマの反応に、ニニの方が驚いた。
「当たり前じゃない。次元が違うってことは、時間の流れも、空間の構成も、つまり時空ってことよ、二つとして同じものはないんだから」
「へえ!」
「もうひとつは身体かな。私たちも人間だから、怪我すれば血も出るし、同じように呼吸して同じものを食べる。でも、違う次元の気候や時を移動するために、体の作りが少し違うのよ」
と、扉が開いた。
「おっ、面白そうなこと、話してるね!」
ライラだった。
「チョットマ。ついてきな!」
笑みを堪えている。
腕を取ろうとして、白い歯がこぼれた。
チョットマは立ち上がったが、ニニを放っておくことになる。
せっかく、ゆっくり話してくれそうな様子なのに。
と、ニニも立ち上がった。
「一緒に行っていいですか」
「どこ行くの?」
質問に答えようとせず、ライラは足早に前を行く。
「ここじゃ、話せない。おまえにも働いてもらうからね!」
まさか、いよいよ儀式?
いや、その説明?
嫌な予感がしたが、ライラの足取りはどことなく軽やかで、肩の辺りがうきうきしている。
ニニと顔を見合わせたが、ニニも肩をすくめただけだった。
そのころ、イコマは覚醒していた。
今回の電源落ちは、約三十分少々。
突如、ンドペキの意識が流れ込んできた。
と、感じたのも束の間、電源が落ちていた間にンドペキが見聞きしたことが、自分のものとなった。
荒涼とした丘陵地帯。
稜線上に、数人の男女とパリサイド。
老人がカイロスについて物語り、遠くに、煙が上がっていた。
それからしばらくして。
アヤはンドペキ隊の作戦室で、歓声に包まれていた。
「そうか! いよいよだ!」
パキトポークが咆えている。
仏頂面をしていることの多いロクモンでさえ、顔面をバシリと叩いて、喜びを表している。
アヤは街のコンフェッションボックスから飛び出して、急いでエリアREFに戻ったのだった。
もちろん、イコマから得た情報を持って。
「よかった。あんたがいてくれて。俺達じゃ面が割れてて、街に繰り出せないからな」
と、パキトポークが握手を求めてきた。
「それに、この人は職業柄、コンフェッションボックスの扱いに慣れてるから、安全だしね」
いつもはあまり表情を変えないコリネルスも満面の笑み。
アヤが元は治安省の職員で、コンフェッションボックスで交わされる会話から、市民の不穏な動きを監視していたことを、もう誰もが知っている。
「じゃ、また行って来ます」
アヤは作戦室を出て、再び街に出た。
その後のことをイコマに、いやンドペキに聞かねばならない。
今日は何度かコンフェッションボックスに出入りすることになるが、コンピュータが問題視することはないだろう。
それに、もうそんなことを気にしている場合ではない。