97 行きゃ、わかるさ!
上空の何百というパリサイドは、既に引き上げていた。
空は快晴。
丸太の残り火が、白い煙を立ち昇らせている。
「さて、帰りますかな」
長老が立ち上がった。
「ハクシュウ、スジーウォン殿。積もる話もあるようじゃから、邪魔はせぬ。ただ、これだけはブロンバーグに伝えてくれ」
カイロスを起動するタイミングを間違うでないぞ。
必ず数日前には全世界に向かって、避難を促すのじゃ。
「クシを葬ったということは、ブロンバーグもまだ耄碌はしておらんということじゃろう。われらはこの地で、結末を見届けようぞ」
スジーウォン達が、それぞれパリサイドに抱えられて、コロニーに戻っていく。
「ンドペキ、来てくれてありがとう。心強かった。後は、レイチェル騎士団ね」
スジーウォンから来た通信は、それだけだったが、彼女の心が温かくなっているのを感じることができた。
最強の戦士であり、たおやかな心を持った女性。
彼女のそんな面が見えたような気もした。
「行ってくる」
ンドペキはそう返して、パリサイドが帰還していくのを見送った。
相手から見えてはいないのに、マルコとミルコが手を振っているのがおかしかった。
「行くぞ。準備はいいか!」
ンドペキは号令をかけた。
ここはエリアREF。秘密の部屋の中。
かつて、カイロスの刃が保管されていた場所。
この部屋から抜け出す方法は、ただひとつ。
「長老は気づいてたな。俺たちに」
出現した場所に戻り、頭上に浮かんでいる、目には見えないバーを引き下げればいい。
そうすれば、万華鏡の世界を通って元の場所に戻れる。
長老は、ブロンバーグに話しかける振りをして、言葉巧みにこの方法を話の中に織り交ぜてくれたのだった。
しかし、もうそんな出口に向かう気はない。
「ゲンロクの太刀の元へ!」
ヘスティアーに保護されし孤児に喰らわれるために。
「そう来なくちゃ!」
マルコとミルコがすっ飛んでいく。
くすぶり続ける丸太の山の中に。
太刀はまだそこに立っているはず。
「ハクシュウの仇も取ってやろうぜ!」
「どうやって!」
「知るか。気持ちだよ! 気持ち!」
出現した位置を通り過ぎたが、誰も気にも留めない。
全速力で稜線を駆け上がっていく。
「妙なことをするなよ! ゲンロクの機嫌を損ねるな!」
「フン! どうせ見えてやしないさ!」
太刀が見えてきた。
「どうすりゃいいんだ!」
「さあな! 行きゃ、わかるさ!」
「おい、騎士団の団長、なんて名だ?」
「ドトー」
「そうか、ドトーか。よし! 俺が最初に挨拶するぞ!」
「やかましい! ンドペキに任せろ!」
「隊長、口下手だからな!」
「なんだと!」
くすぶり続ける稜線に突き立っている孤児ゲンロクの太刀。
カイロスの刃を吐き出した太刀。
周りにはまだ火が残っていた。
近づくや否や、足元が崩れ、全員揃ってストンと狭い通路に落ちたのだった。
ンドペキ達が降り立った場所は、予想通り、真っ暗な空間。
見慣れた石壁の狭い通路。
「こっちだな」
通路は背後で行き止まり。
向かう方向はひとつ。
もう迷うことはない。
息を吹き返したフライングアイが先頭を行く。
「あれだ!」
突き当たりに、頑丈そうな金属製の扉が立ち塞がっていた。
「強行突破!」
もちろん、外から開くような柔なものではない。
「俺がやる!」
と、ンドペキは銃を構えた。
「扉の向こうに人がいませんように!」