96 へへ! 子供だと、抱きつきやすいね
兄弟のどちらかが死ねば、同時に片方も死ぬ。
再生時には、体が入れ替わった状態で生まれ変わる。
俺達兄弟、クシと俺は、入れ替わりながらマトとして生きてきた。
再生の度に入れ替われば、私情が入り込む恐れを減らすことができる。
カイロスが正しく使われるように。
不穏な人物は、どちらかが抹殺する。
それが誰であろうと。
チョットマを襲ったクシ。
やつにとって、チョットマは抹殺するべき相手だったのだろう。
俺達は相手の行動に、口を挟むことはしない。
それが、二人でこの使命を完璧に遂行する最良の方法だったから。
俺は死んだ。
ニューキーツ防衛軍に追われて。
そして俺はクシの体を得、カイラルーシで少年として再生され、クシは俺の体でニューキーツで再生された。
そのクシも死んだ。
ブロンバーグの手によって。
チョットマを守るため。
しかし、俺は今、身体を入れ替えることなく生きている。
クシの体のまま。
呪縛が解かれたのだ。
それはとりもなおさず、俺たち兄弟の役目が終わったということ。
「スジー、俺は今、妙な気分だよ」
カイロスの刃を握り締めるスジーウォンに、ハクシュウが話しかけている。
「いや、その前に謝らなくてはいけないな。黙っていて、すまなかった。この顔じゃ、俺の小さいときの顔だと言っても通用しないし、兄弟の秘密はまだ話せないと思ったんだ」
スジーウォンは、黙ってハクシュウの話を聞いていた。
ンドペキはその傍らにいる。
ハクシュウは既に、すぐ横にンドペキやスゥ、マルコやミルコがいることを知っている。
「俺は、おまえと一緒に、ニューキーツに戻る。そして皆に、今話したことを伝えたい。そして」
「マスター、まあゆっくり考えて。どうするかなんて、今、考えなくてもいい」
スジーウォンが元気な声を出した。
「私は、あんたが戻ってきてくれるだけで、それでいい。きっとンドペキも、そう言うよ」
「ありがとう。なぜ、俺とクシがこういう生き方をしてきたのか、知らなくていいんだな」
「聞きたくない。話したかったら、聞いてやってもいいけどさ」
ンドペキも、そう思う。
個人の過去。
しかも、きっと辛い、苦しい決断をしたはず。
色々な思いが今、ハクシュウから噴き出そうとしている。
噴き出てくるなら、それはすべて受け止めよう。
しかし、こちらから聞き出すことではない。
「私はさ、あんたのことを、リーダーだと思ってる。もちろんンドペキもそうだけどね。それでいいじゃないか」
スジーウォンが、少年に抱きついた。
「へへ! 子供だと、抱きつきやすいね」
「なっ、抱きつきたかったのか」
「おっと、失言」
「ふふん」
そうやってスジーウォンは、健気にハクシュウを和ませようとしていた。
「ところで、これからどうやってニューキーツに帰る?」
「走るしかないな」
聞いていたパリサイドの指揮官が、提案した。
「明日まで待てば、サブリナが戻ってくる予定です。飛空艇は、まだ何度か往復しなくてはならないでしょう」
「そいつはいいぞ!」
「うん。またあの飛空艇乗りのおやっさんにも会いたかったんだ。サブリナにも礼を言わなくちゃいけないし」
ハクシュウが少年の声を出した。
パリサイドが、長老に向き直る。
「いかがされます。同乗していただくこともできますが」
老人は首を横に振った。
「お気持ちはうれしいが、村の者が、大勢怪我をしている」