82 死体処理立会人
指示された場所に、ローブを纏った者が待っていた。
「お待たせしました」
死体処理の立会人。
ライラから、その者の指示に従うように、と言い付かっていた。
年老いた兵士たちが立ち並んでいた場所。
ここにひとつの扉があるという。
「よろしくお願いします」
ンドペキは深く頭を下げた。
ローブの者は言葉を返さず、背を向けた。
美しいローブだった。
よく見ると、濃紺の地に銀色の刺繍がちりばめてある。
ボタニカルなパターン模様に混じって、さまざまな記号が描かれてあった。
扉は壁に同化して、そうと聞かなければ気がつかない。
立会人が手を差し出した。
石の壁に触れると、石はゆっくりと色合いを変えていく。
美しい手だった。
女だ。
立会人はバーチャルな壁に踏み込んでいく。
「ついてきてください」
女の声。
扉の中は漆黒の闇。
「照明をつけてもよろしいでしょうか」
ゴーグルを暗視モードに変えても、立会人の輪郭さえ見えない暗闇。
「どうぞ」
あっ。
ンドペキは息を呑んだ。
立会人が顔を向けていた。
フードの中に見えた顔。
目だけが見えていたが、それはまさしく、
「スゥじゃないか!」
目が笑った。
「私の仕事のひとつです」
緊張が一気にほぐれていった。
「なんだって、また」
「無駄口は、ご遠慮ください」
つれない反応だったが、ここはスゥに従っておくのが賢明。
「いくつか、ご注意いただきたい事項があります」
あくまで事務的な口調。
誰かに聞かれているのかもしれない。
狭い部屋だった。
しかし、天井ははるか高く、闇に紛れている。
垂直ではなく、左方へ向かっているようだ。
黒光りする石の壁に沿って、石の階段。
部屋の壁を回りながら左へ左へと折れて上部に伸びている。
「最上部まで登っていただきます」
「うむ」
「あの部屋に入ろうとしないでください」
階段の後方、隠れるようにひとつの扉。
「途中、もうひとつ扉がありますが、そこも立ち入り禁止です」
「はい」
「万一、何者かに出くわした場合は、今日の処理は中止とします」
「何者か、とは?」
「申し上げることはできません。あなた方は、すべてにおいて私の判断に従うものとします」
「かしこまりました」
「処理に要する時間は、ほんのわずかです。ただし、死体を担ぎ上げる時間を除いてです」
スゥは事務的に注意事項を挙げていく。
本日から丁度2週間後の同時刻に、同じ者が、ここに集まるように、という指示で説明は終わった。
「では、参りましょう」




