81 人はさ、人であれば、みんな同じさ
ニューキーツと呼ばれるようになる前、キーツの郊外にあるこの地には、自らをカイロスの民と呼ぶ人たちが小さな村を作り、自治によって街を運営していた。
一応はキーツの街の一部ということになっていたけど、アンドロもいないし、半ば放置されたような状態だったんだよ。
実は、それよりもっと遠い昔は、鉱山があってね。金を初めとするメタルを採掘していた。
エリアREFはその名残さ。
カイロスの民も、その残り滓を集めては暮らしの足しにしていたんだ。
どちらの街の人間も、相手の街に係わり合いにならないようにしながら、それぞれ平穏に暮らしていた。
しかし、世界戦争に巻き込まれたキーツの街は荒廃しきってしまった。
キーツの連中は街を捨て、ここに無理やり移住してきて、街の名をニューキーツとしたんだ。
そしてエーエージーエスの輝かしい成果も受けて、少しづつ街は発展した。
この村は飲み込まれてしまったのさ。
勝手なことをするもんさ。
この街の元の名は、おまえももう知ってる通りだよ。
サントノーレ。
「うん。知ってる。門番さんのところに書いてあるから」
「じゃ、カイロスの民って、どんな連中か、知ってるかい?」
「……聞いたこと、ある、という程度」
「じゃ、きちんと話すよ」
昔、ゲントウという科学者が住んでいた。
とても優秀でね。重要な装置をいくつも開発したんだ。
その内のひとつ、カイロスという装置は、地球の滅亡を救うものだと言われている。
そしてもうひとつ、クロノスという装置は、地球滅亡後に人類を救うものだと言われているんだよ。
当時から、太陽フレアの極大化がそう遠くない将来に起こり、そのとき地球という天体は、人類が慣れ親しんできた地球ではなくなるだろうといわれていた。
装置はそれを回避するためのもの。
「科学技術ってものが流行ったのは、その頃までだね。その後、世界はどんどん後退してる。今じゃ、まるで二十一世紀だよ」
見かけはね、とライラは付け加えた。
見えないところで、アンドロが過去の科学技術の成果を利用して、人々を潤しているからだ。
「人類は宇宙にも飛び出していった。海も地底も活用することができるようになった。でも、そこから一歩も出られないどころか、地面に張り付いて生きていくだけの不器用な動物に逆戻りさ」
過去を知らないチョットマにとって、そんな話に興味は沸かない。
「そのゲントウっていう人は、マト?」
どうしても、質問は現実的になってしまう。
「チョットマ」
「はい?」
「マトかどうか、なんてことは大切なことじゃないよ。人はさ、人であれば、みんな同じさ」
「うん」
「お前のようにクローンであっても、ハワードやニニのようにアンドロであっても」
チョットマは、ハッとした。
自分がクローンであることは、まだ話していないのに。
話せば、レイチェルの死を説明しなくてはならなくなるから、伏せられていることなのに。
しかし、ライラは何食わぬ顔。
人工フルーツをがぶりと口にすると、また話し出した。