79 冒険ごっこじゃないんだぞ!
ンドペキは、作戦のあらましを説明した。
「もう屋根の上には出ることができず、かといって、下の道に出る扉を開くこともできない」
昨日見たときには、横穴の先は全くの闇に包まれていたが、今はその先が見える。
隊員が既に、奥の扉をスコープで入念に調べ始めている。
依然、真っ暗だが、隔てているものは普通の空気だけ。
ライトの光がはっきり扉を照らし出している。
扉はほんのすぐそこ、三十メートルほど先。
「やはりここにも仕掛けがあったんだな。今は電池切れというわけだ」
目視では、扉には、なんの仕掛けも見つからない。
ただの木製の扉。
外から開けることが想定されていないなら、ドアノブがないかもしれないと想像していたが、そんなこともなかった。
だが、当然何らかのセキュリティは施されているはず。
イコマの思考が落ちると同時に、フライングアイも役に立たなくなったが、もうそれも必要ないだろう。
しかし、いつ何時、電力が復旧するとも限らない。
そうなれば、この通路に仕掛けられた罠が発動する。
選択肢は二つ。
ここから、あの扉を爆破して突破する。
もうひとつは、ドアを普通に開けようと試みる。
「あの向こうに、レイチェル騎士団がいる可能性もあるなら、いきなり爆破ってのも、乱暴だな」
「挨拶もくそもあったもんじゃない」
隊員たちが口を揃えた。
シェルタそのものはエリアREFの地下深くにあると聞いている。
しかし、出入り口のひとつがこの扉なら、要員が配置されていてもおかしくはない。
「爆破案には反対、ってことだな」
「隊長が決めればいいけどね」
「マルコ!」
「おう!」
「ミルコ!」
「おう!」
ンドペキは隊員達の名を呼んだ。
「作戦はこうだ」
ンドペキはバックパックからワイヤーを取り出した。
「こんなに長いのは必要なかったな」
カットラインほどではないが、強靭でしなやかなものである。
「コリネルスが持たせてくれた。というより、強引に持たされた」
「なんだよ、それ」
「一人がこれを腰に巻いて、あの扉まで行く。途中でもしバーチャルな罠が発動したら、これでもって引き寄せる」
「だ!」
「げっ! いくらなんでも!」
「そう。俺もそんなみっともないことできるか!と言ったんだが、コリネルスが」
ンドペキはワイヤーを解いていった。
「確かに、それが確実ね」
「おい! スゥ! 冗談じゃない!」とマルコ。
「三つの子供の冒険ごっこじゃないんだぞ!」とミルコ。
「それにだ! 扉が開いて、向こうにレイチェル騎士団がいたらどうする! そんな格好を見せられるか!」
「ということで、俺がこれを腰に巻いて、扉まで行く」
ンドペキはさっさとワイヤーを腰に括りつけた。
「物理的な罠が仕掛けられているかもしれない。なにしろ外から入ることは想定されていない扉だ」
「なっ、隊長、そりゃ……」
「立会人の言葉を忘れたか? 行けば非常に恐ろしいことに巻き込まれます。な、スゥ」
「うん」
実際、電源が落ちた今、電気的な仕掛けは用はなさない。
しかし、万が一ということもある。
「ドアをノックしたら開けてくれるか? そんな都合のいい話じゃない。いざとなれば爆破だ。ここで待っていてくれ」
ンドペキは横穴に飛び込んだ。