表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/258

74 ディナーそれともシャワー

 死んでしまいたい。

 消えてしまいたい。

 できることなら。


 大昔の人なら、こう言ったろうか。


 数人のパリサイドに取り囲まれて、切り株に座ったスジーウォンは顔を上げることもできなかった。

 かつてチョットマとスミソがしたように、パリサイドの脚に掴まって、カイラルーシの戦闘機からの攻撃を回避したのだった。




 あと少しで、カイロスの刃が突き立っている稜線に行き着くというとき。

 カイラルーシ軍の戦闘機が接近。

 ゴーグルにもそれとわかる影が。


 追いつかれる!

 さすがにスピードは段違い。

 炎に包まれたロア・サントノーレはおろか、スミソが消えた位置までも行き着けない。

 どうする!

 その時だった。

 二人のパリサイドが目の前に降り立ったのだった。




 投げかけられる質問が悪気でないことはわかっている。


「あの刀は、どういう由来のものなのか」

「なぜ、カイラルーシ軍を敵に回したのか」

「ロア・サントノーレまで来た理由は」

「サブリナと、どういう関係?」


 しかしそのどれにも、まともに答えることができなかった。


 心には、スミソの死が重くのしかかっていた。

 パリサイドも、スミソは救い出せなかった。

 あの泉の蒸気に包まれるや否や、消え去ったという。

 救出するべく急降下したが間に合わなかったと、申し訳なさそうに言った。




「お前達! 慎まないか。失礼じゃないか。気を落とされている方に」


 ひときわ立派な体躯を持ったパリサイドが近づいてきた。

 パリサイドの例に漏れず、表情は乏しいが、温かい眼差しを向けてくる。


 コロニーは、ロア・サントノーレからさほど遠くない森林地帯にあった。

 スジーウォンとアビタットが座っているのは、コロニーの縁にある小さな広場。

 炎はここまでは及んでいない。 

 雨に濡れた木々のみずみずしい緑が、目の前に広がっていた。


「申し訳ない。無礼をお許しください」

 男は、腰を折って詫びの言葉を口にすると、取り囲んでいたパリサイドを追い払った。


「霧があれほど恐ろしいものだと認識していませんでした。様子見をしてしまい、間に合いませんでした。本当にすまないことをしました」


 男はUG0013と名乗った。

 この村のリーダーを務めているという。


「まずは、ゆっくり静養なさってください。もうすぐお食事の用意ができます。それともシャワーになさいますか?」

「お心尽くし、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、もう少しここで休ませていただきます」

 アビタットが礼を言った。

 スジーウォンも顔を上げ、かろうじて感謝の気持ちを口から出した。

「ありがとうございます……」


「では後ほど」

 男はそう言い残して去り、入れ違いに現れた女性らしきパリサイドが、ひとつの建物に案内してくれた。



 パリサイドの集落には、入口や門というものがない。

 森林をわずかに切り開いた広場の中に、いくつかの建物がポツポツと無秩序に建っているだけ。

 その建物も、木の板で屋根を葺いて目隠し用の板を立てかけただけのもの。

 粗末な造りのものばかり。

 人口は五千人というから、ほとんどの者は戸外で暮らしているのだろう。

 シリー川の対岸に見たのと同じような景色だった。


 案内された建物には壁や扉があり、なんとかプライバシーを保てる造りだった。

 板張りの床さえ貼ってある。

「どうぞごゆっくり」

 それだけ言って、女は下がっていった。

 粗雑な造りのテーブルには、温かい食事が用意されていた。




「妙なことになったね」

 気を紛らわそうとしてくれているのか、アビタットがおどけた調子で言いながら、食事をよそい分けてくれる。

「案外、パリサイドって、質素な生活をしてるんだね」

 食事は豪勢といえるものではなかったが、それでも口に入れると、幾分落ち着いた気分になった。


「これって、材料はカイラルーシから手に入れてるんだろうな」

 でなければ、野菜や肉は手に入らない。

「エネルギーチップの食事でなくて、本当に良かったよ」

 久しぶりに、本物のオニオンスープをカップから飲んだ気がした。



「これからどうする?」

「アビタットは?」

 彼がロア・サントノーレに来た目的は達成されていない。

「誰かを殺すって」


 アビタットが朗らかに笑った。

「さあね。あいつがさっきの連中の中にいたらいいんだけど」


 パリサイドの足に掴まってこのコロニーに降り立ったとき、百人ばかりの人々が一箇所に集まっているのが見えた。


「あれ、ロア・サントノーレの住民だろ」

「みたいだな」

「あの連中も、救出されたんじゃないかな」

 あり得ることである。


「で、あの中に、あなたの探している人がいたら?」

「うん。話し合う」


 アビタットの顔が微妙に曇っていく。

「僕のことより、スジーウォンはどうするのさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ