74 ディナーそれともシャワー
死んでしまいたい。
消えてしまいたい。
できることなら。
大昔の人なら、こう言ったろうか。
数人のパリサイドに取り囲まれて、切り株に座ったスジーウォンは顔を上げることもできなかった。
かつてチョットマとスミソがしたように、パリサイドの脚に掴まって、カイラルーシの戦闘機からの攻撃を回避したのだった。
あと少しで、カイロスの刃が突き立っている稜線に行き着くというとき。
カイラルーシ軍の戦闘機が接近。
ゴーグルにもそれとわかる影が。
追いつかれる!
さすがにスピードは段違い。
炎に包まれたロア・サントノーレはおろか、スミソが消えた位置までも行き着けない。
どうする!
その時だった。
二人のパリサイドが目の前に降り立ったのだった。
投げかけられる質問が悪気でないことはわかっている。
「あの刀は、どういう由来のものなのか」
「なぜ、カイラルーシ軍を敵に回したのか」
「ロア・サントノーレまで来た理由は」
「サブリナと、どういう関係?」
しかしそのどれにも、まともに答えることができなかった。
心には、スミソの死が重くのしかかっていた。
パリサイドも、スミソは救い出せなかった。
あの泉の蒸気に包まれるや否や、消え去ったという。
救出するべく急降下したが間に合わなかったと、申し訳なさそうに言った。
「お前達! 慎まないか。失礼じゃないか。気を落とされている方に」
ひときわ立派な体躯を持ったパリサイドが近づいてきた。
パリサイドの例に漏れず、表情は乏しいが、温かい眼差しを向けてくる。
コロニーは、ロア・サントノーレからさほど遠くない森林地帯にあった。
スジーウォンとアビタットが座っているのは、コロニーの縁にある小さな広場。
炎はここまでは及んでいない。
雨に濡れた木々のみずみずしい緑が、目の前に広がっていた。
「申し訳ない。無礼をお許しください」
男は、腰を折って詫びの言葉を口にすると、取り囲んでいたパリサイドを追い払った。
「霧があれほど恐ろしいものだと認識していませんでした。様子見をしてしまい、間に合いませんでした。本当にすまないことをしました」
男はUG0013と名乗った。
この村のリーダーを務めているという。
「まずは、ゆっくり静養なさってください。もうすぐお食事の用意ができます。それともシャワーになさいますか?」
「お心尽くし、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、もう少しここで休ませていただきます」
アビタットが礼を言った。
スジーウォンも顔を上げ、かろうじて感謝の気持ちを口から出した。
「ありがとうございます……」
「では後ほど」
男はそう言い残して去り、入れ違いに現れた女性らしきパリサイドが、ひとつの建物に案内してくれた。
パリサイドの集落には、入口や門というものがない。
森林をわずかに切り開いた広場の中に、いくつかの建物がポツポツと無秩序に建っているだけ。
その建物も、木の板で屋根を葺いて目隠し用の板を立てかけただけのもの。
粗末な造りのものばかり。
人口は五千人というから、ほとんどの者は戸外で暮らしているのだろう。
シリー川の対岸に見たのと同じような景色だった。
案内された建物には壁や扉があり、なんとかプライバシーを保てる造りだった。
板張りの床さえ貼ってある。
「どうぞごゆっくり」
それだけ言って、女は下がっていった。
粗雑な造りのテーブルには、温かい食事が用意されていた。
「妙なことになったね」
気を紛らわそうとしてくれているのか、アビタットがおどけた調子で言いながら、食事をよそい分けてくれる。
「案外、パリサイドって、質素な生活をしてるんだね」
食事は豪勢といえるものではなかったが、それでも口に入れると、幾分落ち着いた気分になった。
「これって、材料はカイラルーシから手に入れてるんだろうな」
でなければ、野菜や肉は手に入らない。
「エネルギーチップの食事でなくて、本当に良かったよ」
久しぶりに、本物のオニオンスープをカップから飲んだ気がした。
「これからどうする?」
「アビタットは?」
彼がロア・サントノーレに来た目的は達成されていない。
「誰かを殺すって」
アビタットが朗らかに笑った。
「さあね。あいつがさっきの連中の中にいたらいいんだけど」
パリサイドの足に掴まってこのコロニーに降り立ったとき、百人ばかりの人々が一箇所に集まっているのが見えた。
「あれ、ロア・サントノーレの住民だろ」
「みたいだな」
「あの連中も、救出されたんじゃないかな」
あり得ることである。
「で、あの中に、あなたの探している人がいたら?」
「うん。話し合う」
アビタットの顔が微妙に曇っていく。
「僕のことより、スジーウォンはどうするのさ」