73 見損なっちゃいけない
「ユウ。ちょっと確認するけど、ンドペキのことじゃないんだな」
あっ、という顔をして、ユウは口元に軽い笑みを見せた。
「全然違う新しいカラダ」
「誰かと同期するってやつじゃなく?」
「そう。全く新品」
「ふう!」
ンドペキと二人、ユウの手によって、同期することになった。
そして今、この再会を、アヤも含めたすばらしいひと時を、ユウは作り出してくれた。
その上で、自分は肉体を得ることになる……。
それがどんな結果を生むことになろうとも、ユウが意図したことなら、何だって受け入れる。
己は、今も昔もふがいないが、ユウの恋人……。
なんだから。
ただ、ユウの口ぶりは重い。
「でも、一旦カラダを手に入れると……」
歯切れ悪く、逡巡が声に滲む。
「もうアギではなくなるから」
「うん」
「だから、未来永劫の命は保障されない」
「なるほどな」
「アギに与えられている特権……」
どの街にも属さない代わりに、どこにでも行ける。フライングアイとして。
そして、決して失われることのない記憶。
「これも消滅する」
「そんなもの、もういらないよ」
「そう……」
「今、目の前におまえが……」
「うん……」
「で、聞くけど、そのメッセージが来たら、どうすればいい?」
どんなことになろうとも、ユウの気持ちに従う。そう決めた。
「じゃ、はっきり、言うね」
「そうしてくれ」
「ノブに生きていて欲しい。その申し入れを受けて欲しい」
「ああ、そうする」
「ありがとう。でも……」
ユウの声が、また詰まった。
「つまり、アギはパリサイドになる、ってことなんだけど……」
「おっ!」
「勘違いしないで。地球をパリサイドのものにしよう、ということじゃないの」
「えっ、あ、そんなこと思ったんじゃない」
「でも、今」
「僕が驚いたのは、これで正々堂々、ユウと一緒にいれる、と思ったんじゃないか」
ユウの顔が見る間にほころんでいった。
「見損なっちゃいけない。僕はユウと一緒になるためなら、パリサイドであろうが、泥人形であろうが、全然かまわない。蛍だって、権現さんだっていいんだよ!」
ユウが、ほっとしたように笑った。
今、パリサイドの立場はあやふやだ。
地球に帰還してきたとはいえ、受け入れられているとはいいがたい。
パリサイドを排除する。戦闘やむなし、という空気も広がっている。
そんなとき、アギが皆パリサイドになれば、その力関係に大きな変化が起きるだろう。
「そんなこととは関係ない話なんだけど」
ユウは不安だという。
多くのアギが申し入れを拒むのではないかと。
「でも、受けてくれないと、助けられない」
もう少し時間があれば、マトやメルキトを作る技術も取得できる。
しかし、太陽は待ってくれそうにないというのだ。
パリサイドの肉体なら即、製造できる。
「じゃ、楽しみにしてる。この話は、まだ誰にも内緒」
「了解だ」
付加される能力は限定的で、一度に製造できる数も限界があるという。
「順番はあるみたいやから、気長に待っててな」
イコマの胸は希望に膨らみ、幸福感がこみ上げてきた。
また一緒に暮らしていける。
今度こそ本当の体を持った人間として。
「そして……」
「そして?」
「そうなったら、結婚してくれ!」
こんな話をしてからまだ数日。
既に、アギがパリサイドの肉体を得てエリアREFに出現し始めている。
自分の順番はまだか、とイコマは思った。