69 なぜ、それを先に言わないんだい!
アギ?
パリサイドが?
タールツーが?
そういえば……。
ユウが話していた。
肉体が欲しくないかと。
結局、あの話は中断されたままになっていたが。
これがそうなのか……。
通路は大きく弧を描いて右手へ曲がっていく。
分かれ道に差し掛かっていた。
「右へ!」
この通路で初めての分岐。
「もうすぐ!」
分かれ道を通り過ぎざま、ンドペキの耳が短い声を捉えた。
「待ってくれ!」
「なんだい!」
「声が聞こえた!」
「それがどうした!」
あれは確かに、チョットマの声。
ダメ! という短い声だが、聞き間違うことはない。
特徴的な甲高い声。
遠くで発せられた声が、地下通路を伝わって来た。そんなふうに聞こえた。
「確かめてくる!」
ンドペキは引き返そうとしたが、ライラが許さない。
「なに言ってるんだい! あんただけじゃ、ここから出られないぞ!」
「くっ」
ライラの指でなければ、この通路を閉ざす扉は開かない。
そう気づいて、ンドペキは迷った。
「しかし! チョットマが!」
もし、助けがいるような状況なら!
「ん? チョットマ?」
「違いない!」
ライラが、スゥの背でくるりと振り向いた。
「ダメ、と叫んでいた!」
「スゥ! 引き返す! 早く! なぜ、それを先に言わないんだい!」
どうした! チョットマ!
今、ゴミ焼却場の格子の床をどうするか、コリネルスらと検討しているはず。
分岐を左に取り、突き進んだ。
「チョットマ! 返事をしろ!」
通信が繋がる。
「あ、ンドペキ!」
「今、向かっている!」
「了解!」
チョットマの声に切迫感はなかった。
一気に安堵感が噴出したが、足を緩めなかった。
「全隊員に告ぐ! 手近なものはサキュバスの庭の入口に急行せよ!」
「REFの各入口の警備を抜かるな! パリサイドの行動にはタールツーが絡んでいる模様! 連動攻撃の可能性あり!」
「了解だ!」
パキトポークの声。
「パリサイドは何人だ」
「少なくとも二、三百!」
「なんだと!」
「さらに増える見込み!」
「おい!」
「ただ、今のところ烏合の衆だ。敵意はあるが、ただちに攻撃してくることはないだろう!」
「JP01の配下か?」
「いや。アギらしい」
「アギ? どういうことだ!」
「わからん! 何としてでも抑え込んでおけ! いざとなりゃ、一人や二人、殺しても構わん!」