68 役立たずだね
ンドペキは、パリサイドに銃を向けたまま、部屋に入った。
ライラの部屋。
「こっちの方が安全」と、スゥ。
どっちでもいい!
扉を閉める直前に飛び掛ってきたパリサイドをまたひとり、撃ち殺す。
「ふうっ!」
「ライラ!」
ベッドに横たえられたライラ。
血の気のない顔。
「息はある!」
「しっかりして!」
パリサイドが体当たりしているのだろう。
扉がドンと鈍い音をたてている。
「懲りない連中め!」
たとえ扉が破られても、そこらじゅうのパリサイドを全滅させる自信がある。
相手が、肉弾でぶつかってくるだけなら。
万一、パリサイド流の攻撃を仕掛けられたら、それはそのとき。
それに、この連中が、怒りのままにエリアREFに出て行けば、かなりまずいことになる。
隊員をサキュバスの庭の入口付近に急行させたいが、この部屋からは通信が使えない。
ンドペキは覚悟を決めた。
「スゥ! 俺はこいつらをひきつけて、上層階に向かう! そこで一網打尽にする!」
「えっ!」
「ここじゃ、袋のネズミ。俺が全員を撃ち殺すか、なだれ込まれるか、しかない!」
「ちょっと待って! それは!」
「話し合ってる時間はない!」
「じゃ、私も!」
「おい!」
「行く!」
「二人で危険を冒す必要はない!」
「あっ、ライラ!」
突然、ライラが目を開けた。
起き上がるや否や、大声を上げた。
「あんたら!」
と、身を起こした。
「ここはあたしに任せな!」
「でも!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、あたしを負ぶうんだよ!」
「はい!」
スゥが背負うのももどかしく、ライラが言う。
「こっちだよ!」
指差されるままに、スゥは部屋の奥へ走っていく。
「ンドペキ! なに突っ立ってるんだい!」
ライラの指が触れるや否や、石の壁が消えていく。
「五秒だ!」
壁の向こうに通路が現れた。
「早く! 閉まるよ!」
ンドペキが通路に飛び込むと同時に、壁は再び実体化し、暗闇に包まれた。
「さてと、もう安心。でも、ぐずぐずしちゃおれないね」
通路は狭く、岩盤をくり貫いただけの不正形な断面をしていて、足元も悪い。
岩穴の抜け道だ。
「あたしも耄碌したねえ。スゥに助けられ、あげくに負ぶわれるとは」
「これからどこに?」
「上に決まってるだろ。やつらが押し寄せる前に」
岩穴はすぐに行き止まりになった。
再び、ライラの指が触れ、また別の通路に出た。
左右に延びている。
依然真っ暗だが、幾分主要な通路なのか、足元はかろうじて舗装されていた。
「よかったねえ。こっちにやつらが来てなくて。右!」
通路は一直線に延びている。
ポツンポツンと扉はあるが、堅く閉ざされ、人通りはない。
空気は淀み、使われることのない道のようだった。
「左に行けば、水系に行きつく」
「こっちに行けば、どこに?」
「行けばわかる。そんなことより!」
ライラが大声を上げた。
「ンドペキ! あんたの隊員に、サキュバスの庭の入口を固めさせるんだよ!」
言われるまでもなく、すでに指示は出そうとしていた。
しかし、岩盤深く、通信が届かない。
「役立たずだね!」
既に何十人かのパリサイドは、REFに彷徨い出ているころだろう。
「どうなっていることやら」
「あいつら、部屋を荒らさないかしら」
「フン。あたしの部屋は大丈夫だよ」
侵入されない構造になっているという。
「あの扉は見せ掛けさ。あれが壊れた瞬間に、本物の扉が閉まる。そうなればやつら、手の出しようもないさ」
急がねば。
浮遊走行ができるほど天井は高くなく、自分の脚力に頼らねばならない。
「ライラ、あそこでなにしようと?」
「無駄口言ってないで、もっと早く走れないのかい!」
「無理言わないで」
「あたしゃ、アギは嫌いなんだよ!」
ライラはそれが理由だと言って、ひとしきり毒づいた。
「よくもあんなものを受け入れたもんだ! タールツーのしそうなことさね!」