59 一旦は抹殺され
「私ね。彼はきっと本当のことを言ったんだと思う」
「ん?」
「ずっと私のそばにいるつもり、だったんだ、と思う」
レイチェル亡き後、チョットマが自分が仕える相手だと言ってはばからなかったハワード。
二人で話し合ったこともあるのだろう。
「だろうね」
きっと、チョットマの見立ては正しいのだろう。
「ところが何かが起きた。彼にとって、何かしなくちゃいけないことが」
タイミングとしては、セオジュン、あるいはアンジェリナの失踪である。
「だから、セオジュンたちとハワードの接点を探ろうと」
チョットマは、飽きることなく、関係するかもしれない人々に聞いて回っている。
「ライラがね……」
「うん」
「セオジュンもアンドロかもしれないって」
「ほう」
「アンジェリナもニニもアンドロでしょ」
「うーむ」
「独り言みたいに言ったけど」
セオジュンは、メルキトということになっている。
これまで、街に住んでいるのはマトかメルキト、と相場が決まっていた。
孤児を引き取って育てたライラがメルキトだと言えば、それで通っていた。
しかし、なんら根拠はない。
案外多くのアンドロが、それぞれの仕事を持って街に住んでいることを知った今、ライラの独り言もあながち外れていないのかもしれない。
「アンジェリナの仕事ってのは、詳しくわかったかい?」
すでにイコマも、概略は耳にしていた。
アンジェリナは、レイチェルのシークレットサービスだが、主な任務は街の情報を集めること、ということになっている。
では、どんな情報を?
「それがね。ニニが毎日うわごとを」
「うん?」
「アンジェリナの使命なんて、とか」
「使命か……」
「なにもアンジェリナでなくても、とか」
「任務じゃなく使命?」
「うん。可哀想なアンジェリナ、とか」
イコマも薄々気づいた。
「レイチェルってさ」
やはり、そうだったのか。
チョットマが大げさにため息をついた。
「私やサリと同じ」
「うーむ」
レイチェルの恋人探し。
「はあ、って感じ」
ため息をつきながらも、チョットマはそれ以上、レイチェルを悪し様に言うことはなかった。
自分で探せばいいのに、とも。
レイチェルの身の上を知れば、それが至難であることをチョットマも理解している。
「でも、そこが引っかかるのよ。だって、アンジェリナが恋をした相手はセオジュン。もしかするとアンドロかもしれない少年」
「つまり?」
「パパ、ずるいよ、わかってるくせに」
「まあまあ、君の意見を聞かせて」
レイチェルの恋人探しの人形として生み出されたクローン、チョットマ。
そのことで傷ついたのは、ついひと月ほど前のこと。
先回りして話すより、彼女自身が話す方がスッキリするだろう。
「サリは、あっさり殺されて次の候補を探せ、ということになった」
「うん……」
ついひと月前、イコマが披露した推理だ。
正しいと思っているが、両本人がいない以上、「推理」の枠を出ていない。
「もし、こんな騒ぎになってなかったら、私も同じように一旦は抹殺されたはず」
「チョットマ……」
「大丈夫よ、パパ。もう、立ち直ってるから」
立ち直ってなど、いないだろう。
チョットマの口から、レイチェルやサリの名を聞くのは、あれから始めてのことなのである。
「パパもみんなも、気にしすぎ。もう、いいのに」
「わかった。そうする。で、推理の続きは?」
イコマはあえて、推理という言葉を使って、ウェットな話ではなく、理性的で論理的な話をしている雰囲気を作ろうとした。
その方がチョットマも話しやすいだろう。
「今から、かなりひどいこと言うよ。いい?」