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51/258

51 掴め、刃

 炎の中に光るもの。

 もう間違いなく剣だった。

 目指すカイロスの刃かどうかはわからない。

 しかし、この熱に晒され続けてまだ光を放っているのは、それが尋常ならざるものの証。



「よし!」

 サブリナからも、こちらの動きが見えていたのだろう。

 約束は五分だったが、こちらの動きに合わせて、剣が降下を始めた。

 力を抜いているのだ。


「ピッタリだ!」

「いいぞ!」

「街に入った!」



 城壁は崩れ去っていた。

 大量の瓦礫が積み重なっている。

 コンクリートが、石材が、燃えている。

 真っ赤に溶けた金属が燃えている。


「ここだ! 中央広場!」

 剣はまだ上空にあるが、ゆっくり降りてくる。


 うっ!


 足元を見て、スジーウォンは背筋が凍った。


 これは!



 泉。


 直径、約五十メートル。

 想像していたよりかなり広い。

 業火の中に、泉だけが清々しい水を湛えていた。

 水面に小波が立ち、炎を映しぎらぎらと光っていた。


「絶対にここに落とすな!」

 落とせば最後、カイロスの刃を二度と手に取ることはできないかもしれない。

 石になることはなくとも、ただではすまないはず。


「泉の魔女の魔法か!」

「冗談はいい! 真剣にいこう!」


 剣から目を離さず、いつでも飛びかかれる姿勢で泉のほとりに立った。

 スジーウォンは、自分はまだ落ち着いている、と思った。

 そう信じようとした。



 剣は真っ直ぐ泉に向かって降下して来る。

 上空、百メートルほど。

 視界は悪いが、はっきり視認できる。

 サブリナが一気に力を抜けば、あっという間に剣は泉に落ちる。

 それがいつなのか、わからない。今かもしれない。


「まず、私が飛ぶ! もし届かなかったら、後は任せる!」

「了解だ!」



 スジーウォンの跳躍力は大きくはない。

 せいぜい、五十メートルほどだろうか。

 スミソも同じようなものだろう。

 下手をすれば、泉に落ちる。

 どのタイミングで飛ぶべきか。

 上へ飛べば、泉に落ちる。

 かといって低く飛べば、失敗したときに後がない。


 エネルギー弾でも放って、剣を吹き飛ばせばいいだろうか。

 いや、そんな不遜なことをしてよいものではないだろう。

 なにしろ、魔法の泉に浸かっている剣。


 どうする。


 空中でエネルギー弾を打てばその反動で飛距離は稼げるかもしれない。

 とはいえ、稼ぐ飛距離はたかが知れている。



「頼むぞ。サブリナ。ゆっくりだ、ゆっくり」

 そう呟きながら、剣を凝視した。

 すでにかなり降りてきている。


 地上三十メートル。


 今、飛ぶべき。


 スジーウォンは力をみなぎらせた。

 頼みのブーツに異常はない。

 下を向くわけにはいかないが、少なくともゴーグルのモニタでは全身万全。



 まさに、スジーウォンが跳躍しようとしたとき。


 あっ!

 剣が視界から消えた。


「泉から離れろ!」

 アビタットの緊迫した声がした。

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