51 掴め、刃
炎の中に光るもの。
もう間違いなく剣だった。
目指すカイロスの刃かどうかはわからない。
しかし、この熱に晒され続けてまだ光を放っているのは、それが尋常ならざるものの証。
「よし!」
サブリナからも、こちらの動きが見えていたのだろう。
約束は五分だったが、こちらの動きに合わせて、剣が降下を始めた。
力を抜いているのだ。
「ピッタリだ!」
「いいぞ!」
「街に入った!」
城壁は崩れ去っていた。
大量の瓦礫が積み重なっている。
コンクリートが、石材が、燃えている。
真っ赤に溶けた金属が燃えている。
「ここだ! 中央広場!」
剣はまだ上空にあるが、ゆっくり降りてくる。
うっ!
足元を見て、スジーウォンは背筋が凍った。
これは!
泉。
直径、約五十メートル。
想像していたよりかなり広い。
業火の中に、泉だけが清々しい水を湛えていた。
水面に小波が立ち、炎を映しぎらぎらと光っていた。
「絶対にここに落とすな!」
落とせば最後、カイロスの刃を二度と手に取ることはできないかもしれない。
石になることはなくとも、ただではすまないはず。
「泉の魔女の魔法か!」
「冗談はいい! 真剣にいこう!」
剣から目を離さず、いつでも飛びかかれる姿勢で泉のほとりに立った。
スジーウォンは、自分はまだ落ち着いている、と思った。
そう信じようとした。
剣は真っ直ぐ泉に向かって降下して来る。
上空、百メートルほど。
視界は悪いが、はっきり視認できる。
サブリナが一気に力を抜けば、あっという間に剣は泉に落ちる。
それがいつなのか、わからない。今かもしれない。
「まず、私が飛ぶ! もし届かなかったら、後は任せる!」
「了解だ!」
スジーウォンの跳躍力は大きくはない。
せいぜい、五十メートルほどだろうか。
スミソも同じようなものだろう。
下手をすれば、泉に落ちる。
どのタイミングで飛ぶべきか。
上へ飛べば、泉に落ちる。
かといって低く飛べば、失敗したときに後がない。
エネルギー弾でも放って、剣を吹き飛ばせばいいだろうか。
いや、そんな不遜なことをしてよいものではないだろう。
なにしろ、魔法の泉に浸かっている剣。
どうする。
空中でエネルギー弾を打てばその反動で飛距離は稼げるかもしれない。
とはいえ、稼ぐ飛距離はたかが知れている。
「頼むぞ。サブリナ。ゆっくりだ、ゆっくり」
そう呟きながら、剣を凝視した。
すでにかなり降りてきている。
地上三十メートル。
今、飛ぶべき。
スジーウォンは力をみなぎらせた。
頼みのブーツに異常はない。
下を向くわけにはいかないが、少なくともゴーグルのモニタでは全身万全。
まさに、スジーウォンが跳躍しようとしたとき。
あっ!
剣が視界から消えた。
「泉から離れろ!」
アビタットの緊迫した声がした。




