50 熱シールド、ある?
あんっ!?
地上に降り立ったスジーウォンが発した言葉の先に、アビタットがいた。
しかし、顔さえ見ずに走り出した。
剣らしきものが目を捉えていた。
炎の中でも、きらりと光を放っているもの。
あれに違いない!
カイロスの刃。
落下点に一刻も早く。
「見えたな!」
後方からスミソの声がした。
「ああ」
「目測、三分十五秒で落下点に到達予定!」
「最短距離でいく!」
「マシンがいようが、誰かが倒れていようが無視するぞ!」
「はぐれるな!」
見渡す限り、激しい炎に包まれていた。
視界はないに等しい。
時折見せる炎の隙間から、かろうじて周囲の様子が見える。
「もし城壁があっても、強引に突き進む!」
「爆破するんだな!」
「そう!」
これまでいくつもの戦闘を経験してきたが、こんなすさまじい状況は初めてだった。
周囲が炎に包まれたこともたびたびあった。
エネルギー弾が間近で炸裂し、数十メートルも吹き飛ばされたこともあった。
しかし、その炎やエネルギーは、ものの数十秒もすれば、薄れていく。
むしろ、その間に次の攻撃の手順を決断し、体勢を立て直し、自らの武器のエネルギー充填を待つのが普通だ。
今はどうだ。
周囲はすでに千度ほどになっていよう。
進むほど、ますます過酷さが増す。
炎の色で染まった視界。
どんな嵐よりもすさまじい音。
ただ、幸い、攻撃してくるものはない。
地面は概ね平坦で、障害物はない。
スジーウォンとスミソは一直線に落下点に向かっていった。
「で、スジー。こいつをどうする?」
聞かなくてもわかっていた。
アビタット。
スミソの後方を追ってくる。
「知るか!」
「だな!」
アビタットにも聞こえているはずだが、後ろから反応はない。
あいつ、大丈夫か。
そうは思うが、かまっている状況ではない。
姿は少年だが、かなりやり手の兵士だったのだろう。
安定した足取りが、スミソの後ろ百メートルほどの距離を正確に保っている。
「スミソ! そんなことより、二人で行く必要があるか?」
「おい!」
ここから先、炎はますます激しさを増す。
万一の場合を考えて、一人はここで待機する方がいいのではないか。
「じゃ、お前がここに残れ!」
スミソがそう言うのはわかっていたが。
「俺が力尽きたら、後はスジー、お前に任せる!」
「ダメだ! 私が!」
「ねえ。装甲、大丈夫? 熱シールド、ある?」
アビタットの声がした。
「ない!」
そんな特殊なシールドは装着していなかった。
「やばいんじゃない?」
「うるさい! お前に関係ない!」
「だからさ、お前って呼ぶなって、言っただろ」
「ええい! うるさい!」
「無謀だなあ」
また、アビタットが涼しい声を出した。
「僕が取って来ようか」
「断る!」
「薄々、こんなことになるんじゃないかって、思ってたんだ」
もし、アビタットが熱シールドを利かせていたとしても、任せる気などさらさらない。
「やかましい! これは私達の任務だ!」
「だよね。でも、任務ってのはさ、成功させなくちゃ」
「ちっ!」
「無茶はいけないよ」
スミソが割って入った。
「おい、アビタット。こっちは気が立ってるんだ。ごちゃごちゃ邪魔するな!」
「じゃ、そうするけどさ。エネルギーパットの残量、どれくらいある?」
確かに、残量は半分ほど。
思ったより、消耗が激しい。異常なほど減っていく。
装甲内を冷やすのに大量のエネルギーを食っているのだ。
もちろん、放電も半端じゃないだろう。
予備は積んでいるものの、心もとない。
スミソはどうだろう。
「お前はお前の心配をしろ! 探す人はいたのか! 殺す相手は!」
「大声で言わないでよ。聞かれたらどうするのさ」
「落下点まで後二十秒!」
「よし!」