5 そんなことより!
チョットマがYMUの巡回警戒任務を交代した直後のことだった。
ひとりで通路を歩いているとき、胸騒ぎがした。
背後!
チョットマは待った。
コンマ一秒にも満たない短い時間。
相手の攻撃が発せられた瞬間の回避が重要だ。
それ以前だと、追尾される。
いったん発砲すると、攻撃機種にもよるが、コンマ一秒であれ五秒であれ、一瞬の隙が生まれる。
その間に体勢を建て直し、反撃に転じることができる。
レーザー弾!
とっさにチョットマはそう判断し、銃が発砲すると同時に、地面に瞬間移動し、応戦した。
「ちっ」
相手の放ったレーザーはチョットマの頭を掠めていったが、それは相手も同じ。
コンマ三秒後にチョットマが自身の放ったレーザーの行方を視界に捉えたとき、すでに敵の姿はそこになかった。
自分を付け狙っているクシであることは疑う余地がなかった。
証拠があるわけではない。
まともに姿も見ていないのだ。
しかし、クシ以外に自分を狙う者がいるとは思えなかった。
チョットマはクシと自分が放ったレーザーの着弾点がくすぶっているのを確認した。
構造物への被害は小さい。
「エネルギー弾とか、もっと破壊力の大きな武器をぶっ放してきたらどうするんだい」
「心配要らない。絶対にかわせる自信があるよ」
汎用武器で弾の速度が最も早いのがレーザー弾。
エネルギー弾は破壊力はあるが速度は落ちる。
「そりゃそうだろうけど」
最初、ここでクシに襲われたとき、チョットマは武装していなかった。
ハクシュウの手裏剣が守ってくれていなかったら、と思うと今でもぞっとする。
今は違う。
完全武装といってよい。
「防御もできるし、たとえ弾が当たっても即死ってことにならないし」
エネルギー弾の様な重火器はここエリアREFでは使えない。
地下街もろとも吹き飛ばすつもりなら別だが。
「でも、こう頻繁に襲われるなら、隊長も手を打ってくれればいいものを」
「だからさ、ンドペキは私だけ特別扱いになんて、しないって」
そうは言いつつ、チョットマは知っていた。
エリアREF外での任務は、絶対に自分には回ってこないことを。
この細い通路が入り組んだエリアREFを一歩出れば、クシの攻撃の幅は格段に広がる。
ンドペキは配慮してくれているのだ。
チョットマが油断しない限り、近接した戦闘では、相手がクシであっても互角に戦える。
勝たなくとも、負けなければいいのだから。
「ンドペキも、ここの人たちにクシの目撃情報を求めているし、そのうち捕まえてくれるよ」
ただ、チョットマとて、全く気にしていないかといえば、そうではない。
これだけ頻繁に命を狙われて、平常心でいられるはずがない。
しかも、狙われる理由がわからないときている。
むしろ常に緊張しているといえた。
今ここに、ライラの部屋に、押し入って来ないとも言い切れないのだ。
部屋ごと吹き飛ばされることさえ、ないとはいえないのだ。
「襲われれば、それはそのとき。ビクビクしててもしようがないから」
チョットマを守る体制があるわけではない。
作戦行動に、それとなく配慮がなされているのみ。
ライラによれば、エリアREFの兵にも協力を依頼しているというが、チョットマ自身はあまり当てにはしていなかった。
現に、数日おきに狙われている。
「そんなことより、セオジュンのこと!」
チョットマは話を元に戻そうとした。
セオジュンの失踪は、チョットマにとって「事件」である。