49 きっとあの中にあるはず
「あああっ!」
スミソでさえ驚きの声を上げた。
サブリナが腕を広げつつあった。
急速に翼を広げ、空中に停止している。
高度三千メートル付近だろうか。
みるみるうちに、羽根はますます広がっていく。
なんと……。
サブリナは……。
パリサイド……。
どおりで……。
「じゃ、準備するか」
久しぶりにセカセッカスキの声を聞く気がした。
たちまち飛空艇は高度を下げていく。
「あいつの腕に触れないように」
飛空艇はかなり迂回して、翼の下に回り込もうとする。
数キロは移動しただろう。
「あんたら、どれくらいなら飛び降りれる?」
そんな経験はない。
わからない。
しかし、二百メートル、と適当に答えた。
「うーむ。炎の中は無理だ。かなり離れた場所になるが、いいな」
「ああ」
セカセッカスキは一気に加速し、二百メートル付近まで高度を下げることができる場所を探し始めた。
見れば、上空はすでにサブリナの黒い薄膜に覆われていた。
こちらの準備を待っているかのように、遥か彼方、微動だにせずぽつんと空中に浮かんでいる。
その体も黒煙の中。
やがて肉眼では見えなくなった。
「気温、摂氏百八十度。地上は八百度を越えている。ここらでいいか」
熱すぎる。
しかし、すでに街の中心部から十数キロほども離れている。
「かまわない」
と言うしかなかった。
この灼熱の中で、どう探せばいいのか。
見たこともないものを。
あるかどうかも分からないものを。
燃え盛る業火の中で。
それに、サブリナの準備とは、何を意味するのだろう……。
どれだけ自分達の命は、もつだろう……。
セカセッカスキが艇の動きを止めた。
準備が整った。
サブリナに見えているだろうか。
なにが始まるのか。
飛空艇乗りは再び自動操縦モードにし、黒煙の中のサブリナを探すかのように上空を凝視し、諦めてモニターに眼をやった。
「私ができるのは、こういうことよ」
「んっ」
サブリナの声が聞こえてきた。
「ここっ!」
サブリナが座っていたシートの上に、角砂糖のような立方体が置かれてあった。そこから声がする。
「詳しく話をしてる時間はなかったから。少しだけ説明するね」
サブリナがそこにいるかのように、明瞭な声が聞こえてきた。
「見てて」
むっ。
強烈なエネルギーを感じた。
「おおおっ」
セカセッカスキが叫んだ。
「なるほど!」
飛空艇も抗しきれないエネルギー!
「浮き上がっている!」
黒煙が立ち込める中に、さまざまなものが浮遊しつつあった。
「見ろ!」
磁石にでも引き寄せられるかのように、重力に抗ってひとつ、またひとつと地面を離れてくる。
「あなた方が探しているのは、カイロスの刃でしょ?」
「そうだ!」
思わず、スジーウォンは叫んだ。
守秘義務など、もう気にしている場合ではない。
「特殊な金属。きっとあの中にあるはず」
街の上空に浮かんでいるものの中に!
「今から五分間持ち上げておく。その間に探して」
「了解!」
スジーウォンは叫んだ。
「素手では触れないかも。十分気をつけて」
「恩に着る!」
「今だ!」
セカセッカスキがハッチを開けた。
「成功を祈る!」
後ろを見ずに飛び降りた。
スミソが続いて飛び降りることは分かっていた。
もし、来なくても、それはそれでいい。
こんなむちゃくちゃな作戦で、死ぬのは自分一人で十分だ。
空中を落ちていく感覚など、そうそう味わうことはない。
しかも、落ちていく先は地獄。
地上に着く直前に、ブーツの浮遊モードをタイミングよく全開に!
姿勢を保って!
でなければ、地面に叩きつけられる。
緊張していいはずだが、スジーウォンは自分が落ち着いていると思った。
目は、炎の中に浮かんでいるはずの剣を探していた。