277 シリー川の会談以来かしら
膝の上、聞き耳頭巾の布に、動かなくなったフライングアイを載せて、アヤは会談を聞いていた。
体の震えは収まったが、おじさんのことを考えると、気が気ではない。
想像していたより広い部屋で、立派な装飾を施された壁や天井が、地下とは思えないほど明るく照らし出されていた。
聞けば、元サントノーレ市の公会堂を移設したものだという。
中央にステージが設えられ、レイチェルとJP01が向き合って腰かけていた。
そして、座る人のない椅子がもう一脚。
ステージ脇には、レイチェル側として、ヒカリ、ユージン、スーザクの三名。
いずれもレイチェルのSP。
パリサイド側には、KW兄弟、そして、相変わらずサリの顔を借りているKC36632。
冒頭に、司会役の女から、ブロンバーグ市長が何者かに殺害されたことが報告された。
そして、言うまでもないことだがと断って、いかなる状況に置かれようとも、市民の代表はニューキーツ長官レイチェルであることが再確認された。
その間、レイチェルもJP01も時々目を交わすだけで、口を開かず、集まった人々に目をやっていた。
レイチェル騎士団の姿はない。
これについて説明しようとする司会役を遮って、レイチェルが口を開いた。
「話を急ぎましょう」
久しぶりに聞くレイチェルの声だった。
「事態は急を要するので」
レイチェルがJP01に向き直った。
「お久しぶりですね」
「ええ、あのシリー川の会談以来かしら」
実際は、スゥの洞窟で何度も顔を合わせている。
しかし、それは伏せておきたいということだ。
「お返事を差し上げないままになってしまいましたね。本当にすみませんでした」
あのとき、パリサイド側は地球での居住権を認めてくれるよう、申し入れていたのだった。
「もう、済んだことです」
「そうですね。では、ご提案の内容を伺いましょう」
やはり、会談の内容は、ニューキーツ沖に停泊したパリサイドの宇宙船に避難してはどうか、というものだった。
「この方法がとれる街は多くありません。現在のところ、世界中でここだけです」
パリサイドを同じ人類として受け入れる素地があり、街の中心部が水系によって海と結ばれているという地形条件を満たさねばならない。
しかも、その水系はある程度の水量があり、かつ熱波の影響を受けない場所にあることが必要である。
「その点、ニューキーツ、サントノーレといった方が的確なのかしら、は好条件が揃っています」
JP01は、単刀直入に申し上げます、と姿勢を正した。
もはや時間の猶予はありません。
この避難所は、カイロスという装置が完全な状態でその役割を果たした場合に成り立つもの、と聞いています。
でも、カイロスは失敗した。
この避難所は人類が生き延びていくには脆弱すぎます。
謹んで申し上げます。
私たちの宇宙船へお越しください。




