273 サントノーレ避難所と記された看板
扉の向こうは急な階段だった。
非常照明がかろうじて灯っていて、何とか降りていける。
アヤは、落ち着いて降りましょうと、周りの人に声をかけた。
ここで雪崩を打っては、非常に危険だ。
この先に行っても、エリアREFに戻れないかもしれない。
そんな不安も沸くが、もう戻ることはできない。
後から後から人が降りてきて、それに逆らって狭い階段を登って行くことはできない。
避難階に着けば、そこからエリアREFに出ればいい。
そう考えよう。
足元に注意しながらも、アヤは物思いに耽った。
考えなくてはいけないことは、これからどうするか、ということ。
しかし、思いは過去へと遡っていく。
なぜか心を占めるのは、あの頃のこと。
離婚して家に戻った日の夜のこと……。
ユウお姉さんがいなくなった後の時期。
大阪でおじさんと暮らしながら、考えていたこと。
おじさんに話したことはない。
ユウお姉さんがいなくなった本当の理由。
私なりに感じていたこと。
ユウお姉さんは、私の身代わりになってくれたんだ……。
もう、過ぎたことだとは思う。
あれから六百年。
でも、私にとってその思いは、拭いきれない重い思い。
アヤのそんなほろほろとした思いは急に断ち切られた。
「着いたぞ!」
という声が下から聞こえてきた。
「ここなのか?」
不安そうな声も。
自然に穿たれた洞窟の小部屋だった。
サントノーレ避難所と記された看板が、非常用照明にぼんやり照らし出されていた。
「どこかに他の人も集まっているはず」
「もうちょっとましなところかと……」
洞窟はまるでアリの巣のように複雑に入り組んでいた。
かなり広いスペースがあるかと思えば、ほとんどは岩の隅間のような空間。
ジメジメした細い通路が続いているようなところもある。
遠くに水の流れがあるのだろう。
地鳴りのような音が聞こえていた。
本当にここが避難所?
そんな不安が人々の顔にあった。
しかし、ようやく先に来ていた人の姿を見つけると、やや落ち着いた気分にはなったようだ。




