388 くそ! はこっちの台詞!
ンドペキは、オーエンからイコマが聞いた話をした。
「で、ここに来たのね」
「ああ」
実際、あの人流から逃れることはできなかった。
波に逆らおうとすれば、多くを傷つけることになっただろう。
しかし、ンドペキは仕方なかったとは言わなかった。
己の意識の中に、ユウの元へという気持ちがあったのだから。
「すまない」
再び謝った。
スゥが目の前にいながら、ユウを追ってくるとは。
今となっては、なにをさしおいても、スゥの安全を期するべきだったと思う。
「許してくれ」
「許すも許さないも、ここへ来ざるを得なかったんだから」
イコマとの同期が切れたと話した。
「ノブねえ」
ユウのイコマへの呼び方。
懐かしい響きだが、今は後味が悪い。
あの洞窟で、イコマと初めて同期したときのように、違和感さえある。
「なあ、スゥ。ユウは今、どこに?」
「シリー川のコロニーにいたけど、きっと今頃、ニューキーツ沖合いに沈んでるシップの中。どういうこと?」
「そうなのか……」
「あっ、そうか!」
「……」
「さっきのオーエンの話。パリサイドの女が二人、ベータディメンジョンで待ってるって。まさか、ンドペキ、それを」
「ユウだと思った……」
「はあ……」
なんという早とちりを。
「くそ!」
「くそ! はこっちの台詞!」
「だな。すまない」
「やれやれ。ま、仕方ない。あの状況で。ンドペキはノブなんだし」
もう二度と、イコマと同期しなくていい。
自分にはスゥがいる。
アヤちゃんも。
イコマの意識に振り回されるのは、もうごめんだ。
「アヤちゃん、いないかも」
「うむう」
無念。
こんなことになるなら、回廊手前で別れねばよかった。が、後の祭り。
しかし、回廊で、アヤとはそれほど離れていなかったはず。
群衆に押し流され、この次元に出現したのなら、近くにいるのではないか。
むむむむむ。
唸ることしかできなかった。
アヤを残してきてしまったかもしれない。
これでよかったのか、悪かったのか。
しかし、家族。
やはり、どんな状況であれ、傍にいるのが喜ばしいのではないか。
結局、アヤはいなかった。




