343 ねえ! 聴いて聴いて!
「パパ! ねえ! 聴いて聴いて!」
イコマの部屋にチョットマが駆け込んできた。
そう言うなり、歌いだした。
Ah
この手のぬくもりはすぐに消えていく
後姿は見ていたくない
Ah
ただ、呟くだけさ
やれやれ、って
そして、ごめん、って
「これって、失恋の歌!」
「いいじゃないか!」
「一つ目のお姉さんが教えてくれた!」
「ねえ……、パパ」
「なに?」
「……パパって呼んでも、いいかな。これからも」
「当たり前じゃないか! 前にもそう言ったよ」
「だって……」
「ははあ、さては僕とンドペキのことを気にしてるんだな」
「そりゃあ……」
「もう同期してないし、第一、僕は君を娘だと思ってる。家族だって」
イコマはまだ、ユウのように、元の容姿を纏うことに慣れていない。
パリサイドの姿。
表情を作ることもままならない。
チョットマはその黒い体に飛びついてきた。
「よかった!」
宇宙船は地球を離れつつある。
生存者の捜索、ないし搭乗を拒む人々の説得を続ける十隻を残して。
船団は五十七隻。
いずれは木星付近に待機する巨大な母船に合流するという。
このあけぼの丸以外の宇宙船は、パリサイド以外はほんのわずかしか乗船していない。
分乗すればもっとゆったり暮らせるのだが、ニューキーツ市民はあけぼの丸から、正しく言えば、レイチェルから離れたくないというのだった。
少なくとも、地球が見えている間は。
行き先は告げられていない。
太陽系にとどまるのか、パリサイドの星域に向かうのか。
不安な面はあるが、まずは太陽フレアの脅威から逃れたことの安心感の方が大きい。




