341 その、なんだ、まあ、おまえしか
「KC36632に助けてもらってから、少しづつだけど、自分が見えてきたの。それと同時に、周りの人のことが少しだけ理解できるようになってきた」
レイチェルは一拍の間をおいて、宣言するように言った。
「そして、私、もうキャリーじゃないんだって」
そして半ば叫ぶように言った。
「頭の固いオールドミスの、自己中心的な女じゃないんだって」
そして涙ぐんだ。
「キャリーという意識は依然としてあるけど、私、レイチェルなんだって。みんなに囲まれて、ンドペキに、おまえ! いい加減にしろって怒鳴られてなんとなく喜んでる、そんな女の子、レイチェルなんだって」
「変なこと言うなよ。誤解の元だろ」
ンドペキは冗談めかして、レイチェルをたしなめる振りをした。
レイチェルの息は明らかに上がっていた。
肩で息をしている。
一息つかせてやりたかった。
込み上げてくる涙をこらえさせてやりたかった。
「いいじゃない、もう。わたし、振られたんだから」
「また、そんな」
レイチェルの笑った頬に涙が一筋流れた。
「最後に一言、いい?」
「身体のこと考えて、手短に。最少の言葉でな」
「うん。もっとしなくちゃいけないことがあるって気がついた。子供を産んでホメムの血を守って、そんなことじゃなく」
私そもそも、時間を遡って、純正のホメムって、もう言えないかもしれないし。
エリアREFの部屋で寝ながら、真剣に考えた。
自分に何ができる、って。
「普通に友達とおしゃべりして、誰かを好きになったり。そして、時には真剣に何かに取り組んだり……」
「そうしてるじゃないか」
「ううん。長官らしいこと、みんなの役に立つこと、何もしてない」
「そんなことはないさ」
「ううん。それでね。さっきパリサイドの船長に話したの」
「ん?」
「長官を辞めますって」
「えっ」
「もう、ニューキーツの街もないんだし。もし、市民を纏める誰かが必要なら、適任者を推薦しますって」
「おい!」
「ンドペキを、って」
「なに!」
「そう思うって」
「ふざけるな! そんな気はない。絶対に断る! 勝手なことを言うな!」
「そう言うと思った。でも」
「でももしかもあるか! おまえ、いい加減にしろ!」
「そうよね。じゃ、選挙ってのは? もう廃れてしまった方法だけど」
「いい方法にも聞こえるけど、それはダメだよ」
ライラが久しぶりに口を開いた。
「市民の代表になれる奴なんて、いないよ。今は。それに、レイチェルが適任だとみんなが知っている」
ふとンドペキは思い出した。
長官として重責に耐えながら恋人探しをするレイチェルを、かわいそうだと思った日のことを。
「レイチェル」
「なに?」
「その、なんだ、まあ、おまえしか。ライラも言ったように……」
「……うーん。ごめんなさい」
「またそれか」
「今のはうそ」
「はあ!」




