305 十日ばかりが過ぎ
十日ばかりが過ぎた。
パリサイドの宇宙船は、まだ地球にあった。
多くの人が乗船していた。
その数、約八万人。
少しずつ増えている。
巨大な船の内部は、そこが海中深く、陽の光も届かない場所だということを感じさせることはない。
生き残った者は、それぞれの体験談を交換した。
他人を襲った苦難や不幸。
自分を苦しめた出来事。
それを秤に掛けて、互いにねぎらい合った。
チョットマは元気を取り戻し、隊のアイドルぶりを発揮していた。
しかし、さまざまな経験が彼女を変えていよう。
ただ、そんなことはおくびにも出さない。
宇宙船の甲板に出ては、海の生物を観察していた。
その傍らには、いつもスミソかプリブがいて、チョットマがはめをはずさないように見守っている。
シルバックと一緒にスミソの懐に入って、海中の散歩を楽しむこともあった。
男だからとスミソに断られているプリブは、女装してきては「これでどうだ」と笑わせているのだった。
船内でもチョットマは新しい友人を見つけていた。
中には、昔の親友サリに似た可愛い女性や、パキトポークのように親分肌の中年男も。
時には思い出すことがある。
セオジュン、アンジェリナ、ニニのこと。
ニニは、あの次元に残った。
その時のニニの言葉が忘れられない。
「私の仕事はアンジェリナの傍にいて、彼女を見守ること。だから、ごめん」
スジーウォンやコリネルスは、ベータディメンジョンに残ったパキトポークの穴を埋めて、隊を機能させていた。
ニューキーツに留まり、守る者のいなくなった街を襲ってくる殺傷マシンを相手に、命続く限り闘い抜く覚悟だったスジーウォンにも、もう悲壮感はない。
パキトポークの豪胆ぶりに少しでも近づこうと、装甲のデザインを変え、突き放したものの言い方に磨きをかけた。
ただ、もがいていた。
ハクシュウへの思いを断ち切れずに。
そんな彼女に、チョットマがハクシュウの手裏剣を贈ろうとしたが、「ふざけるな!」と突き返した。
しかしその直後、静かに涙を流すのをコリネルスは見ていた。
コリネルスは、パリサイドの船員たちからも厚い信頼を得ていた。
一挙に膨れ上がった搭乗者に対し、コリネルスがいてこその的確な対応ができていた。
時々、チョットマを呼んでは仕事を言いつけ、チョットマを喜ばせていた。
もちろん、チョットマに自信を取り戻させるために。
東部方面攻撃隊は解隊され、同時に「あけぼの丸」自警団が結成されていた。
あけぼの丸とは、この宇宙船の名前。
あまりにつまらない名前だという声も多かったが、案外気に入っている者も多いという。
自警団は、攻撃隊、ロクモン隊、騎士団、REFの兵、そして防衛軍の生き残りなど合わせて、二百名を優に超えている。
実際、もうそんな兵力は必要ない。
崩壊したニューキーツの行政機構の再構築に合わせて、いずれ再編されるのだろう。
これに対して、ンドペキもスジーウォンもコリネルスも、一切意見は言わないと決めてある。
すべてはレイチェルの意のままに。




