298 サンダルが二足
あ。
サンダル。
街で普通に見かけるサンダルが二足。
池の縁にきちんと並べられていた。
スゥが手を伸ばしかけたが、ヌヌロッチがすかさず声を上げた。
「何も触れないように!」
辺りを見回した。
高い壁に囲まれているが、他に何もない。
窓もなければ他の扉もない。
この明るさがどこからもたらされるのかもわからない。
禁断の苑。
そんな言葉が浮かんだ。
「立ち入り禁止にしなくちゃいけないな、ここは」
早々に広場を後にすると、ほっとしたようにヌヌロッチが言う。
「さっき、マリーリに会いましてね」
その名を思い出すのに、少し時間がかかった。
それほど泉の広場の空気には緊張感があった。
「ワークディメンジョンに戻るそうです」
「そうですか……」
「レイチェルのSPですから」
そういえば、アヤは、マリーリはレイチェルを探す気はないようだと言っていたな……。
「捜索を?」
「さあ。それは知りませんが、彼女の任務はまだ解かれていないので」
レイチェルSPか。
そういえば、他の者はどうしているだろう。
「ここにいるのは誰と誰です?」
「私だけです。他の者は皆、向こうにいるはずです」
皆とはいうが、ハワード、アンジェリナは行方不明。
残るは、ヒカリ、スーザク、ユージン、そしてマリーリということになる。
遠くにクリスタルの街が望めた。
これから先、あそこで暮らすことになる。
食料は物資はふんだんにある。
なにしろ、ベータディメンジョンは地球上の人類を養ってきた生産基地。
きっと、エネルギーも安定し続けるのだろう。
しかし、まだ知らないことが多すぎて、思い描くこともできない。
どんな暮らしが営まれ、どんな社会が生成されるのか。
まだ、なにも見えてはいない。
「ヌヌロッチ」
「はい?」
ンドペキは不安を口にした。
「頼りにしてます」
「何をいまさら。仕事ですから。それはそうと」
ヌヌロッチはあっさり話を変えた。
照れからではないだろう。
そんな感情はない、かもしれない。
むしろ、仕事を遂行しようとする冷徹な義務感が勝るのだろう。
特に、このアンドロは。
「早くお話しせねば、と思っていたのですが」
ヌヌロッチはゆったりと歩を進めている。
自然とンドペキもその歩調に合わせることになる。
こちらが思うほど、ヌヌロッチは今後のことを心配していないのかもしれない。
なにしろ、自分達の次元。
マトやメルキトとここで暮らしていくことも、楽観的に考えているのかもしれない。




