297 演者を待つ能舞台のように
「うむ……」
門を前にして、ヌヌロッチが躊躇している。
まぶしい光が扉の隙間から漏れ出ていた。
門は、高さ五十メートル以上はある。
壁の石材は門のさらに上部、天高く積まれ、この世界、つまりカプセルに天井というものがあるなら、そこに到達しているように思えた。
と、スゥが近づいた。
「待て。俺が」
ンドペキは門に手を掛けた。
ん……。
施錠はされていない。
ドアレバーは軋みながらも軽々と回り、巨大な門がゆっくりと開いていった。
「眩しい……」
この種類の明るさをどこかで見たような気がした。
そうだ……。
ユウを追って金沢に行ったとき……。
光の柱の足元で……。
あの白い砂……。
そこでユウと再会し……。
なぜか、そんな記憶が甦ってくる。
「芝生……」
誰も手入れなどしていないだろうに、綺麗に刈られた芝生。
巨大な石壁に囲まれた小広場。
三人は恐る恐る、広場に足を踏み入れた。
なんの物音もない。
踏み締める土の音、芝草の擦れる音さえ聞こえそうな静寂。
空気はそよりとも動かず、まるで演者を待つ能舞台のように張り詰めていた。
中央に丸い小さな池があった。
透明度の高い水を、さざ波ひとつ立てずに湛えている。
底知れない深さに不気味さがある。
ただ、水はあくまで清涼だった。
イコマが記憶の泉を覗いていたあの情景を思い出した。
ユウやアヤと暮らした思い出に身を委ねるために。
ふと感傷的な気分になったが、「ふーん」と、さりげなく心を隠し、あの時と同じように縁石から身を乗り出した。
しかし、深い記憶に仕舞い込まれた光景が具現化することはなかった。
「これが……」
ベータディメンジョンを安定化させるための装置。
いかつく巨大なものを想像していたが。
「こういうシチュエーションが好きだったのね」
スゥの呟き。
ゲントウのこと。
池は小さい。
自然と一周することになった。




