296 あいまいな部分か……
「そういや、昨夜、明りが見えた」
「えっ、そうですか。装置が本格稼動したからでしょうか」
装置は次元のエネルギーに対して、正対するエネルギーをぶつけることによって空間を制御している。
「きっと、ものすごい力なんだろうな」
「ええ。でも、ここには無限ともいえるエネルギーが渦巻いていますから、その向かう矛先を変えるというようなことなのでしょう」
ヌヌロッチも、詳しくはわからない。
「ただ、そのエネルギーを、というかエネルギーの向きを厳密にコントロールするためには、意識の力が必要なんだそうです」
「意識の力、か……」
「電子的なシステムで厳格にコントロールするのではなく、むしろ、人の志向のようなあいまいな部分のある意識がいいそうです」
「あいまいな部分……」
「それに、デジタルによる指示は、どんなに瞬時に発信されても、どうしても隙間が生じます。人の意識はそれこそ連続的で途切れることはありません」
「そうか……?」
「そうですよ」
人間の脳も、微弱な電気信号によって物事を判断している。
タイムラグがあるものだが……。
人間が目で見たものを判断するには、コンマ数秒の時間がかかる。
今見た、と思っていても、実際はコンマ数秒前のものだと聞いたことがある。
ん?
待てよ。
アンドロは……。
アンドロの生体がどのように作られているのか、知らない。
案外、人より、その意識形成のシステムは精巧にできているのかもしれない……。
「人の意識。それが継続して働くことによって、常に変化し続けている膨大なエネルギーをコントロールし、遮断することができるそうです」
「なるほど」
「ゲントウという科学者、なかなか凄いものを作ったんですね」
この装置も、カイロスも、ゲントウの作。
「人間も、捨てたもんじゃないですね」
振り返ってみれば、アンドロも、その次元への移行も、科学の産物ではある。
オーエンが嘆いたように、その進歩は停滞して久しいが。
「こんなところまで、初めて来ましたよ」
ヌヌロッチの声に緊張感がある。
大通りの西端部に到達した。
クリスタルではない。
地球に存在する石材と鋼鉄、らしきものでできた塀とゲートがそびえていた。




