294 アンドロに倣う
市民は落ち着いている。
気分の悪い者や疲労困憊の人も少なからずいるが、それ以外にトラブルはないという。
朝食も振る舞われた。
取り急ぎ、着替えの衣類も準備されたらしい。
「昼飯は抜き。準備が間に合わないそうだ」
ベータディメンジョンに残ったアンドロ、戻ってきた者を含め総勢千八百名ほど。
急に、三万人以上の市民が押し寄せてきても、対応できない。
「シャワーはなかなか勇気がいるぞ」
個室ではない。
「一応、トイレは仕切られているがな」
パキトポークは装甲を身に着けていた。
「脱ごうかと思ったんだが、まだな」
動きやすいから、と言うが、武装姿の方が市民に押しが効くと判断したのだろう。
軽火器さえ発射可能な状態で携行している。
「慣れるには時間がかかるだろうな」
アンドロには所有という概念がない、とは聞いた。
どこで過ごそうが、どこで寝ようが、自由。
「これからどうする? 昨夜は、とりあえず手近なところで寝たが」
「アンドロに倣う。それでいいんじゃないか」
「そうかな」
パキトポークは、一人ひとり所在地を決めてやらないと、尻の座りが悪いんじゃないか、という。
「その方が、連中も落ち着くと思う」
ンドペキは賛成できなかった。
「絶対にだめだ。アンドロの流儀でいくんだ」
この世界での社会構造が定まらないまま、所有の概念を持ち込めば争いの元になる。
争いどころか、これから造られる社会構造がいびつなものになりかねない。
アンドロ達がなぜいないのか、その理由を市民はまだ知らない。
それに、市民の中にはアンドロに差別感を持っている者も少なくない。
使用人と思っているならまだいい。
人によっては極端に、奴隷ロボット風情が、という意識もあるのだ。
むしろ、それが一般的な意識だともいえる。
「部屋割りは決めない。決めさせない。毎日、シャッフルするんだ」
「面倒だな」
「面倒だろうが、文句が出ようが、そうするんだ」
「うーん」
「パキトポーク。俺たちの役割も決めよう」
「ん?」
「隊員それぞれの」
市民には、組織というものがない。
当面は、東部方面攻撃隊が取りまとめる役を担うしかない。
「まず、全隊員で夕食の準備。というより、夕食を準備する市民を募ろう」
アンドロに頼ってばかりではいけない。
「最初が肝心。アンドロは使用人じゃない。この場所を提供してくれた人々なんだ、ということをわからせなくては」
「了解」
「すぐ取り掛かってくれ」
「よし」
「俺は、ヌヌロッチと今後のことを話してくる」
ヌヌロッチは、彼が指定した部屋にはいなかった。
「今度は迷わないように」
探すしかない。
「そうね」
スゥと共にいる。
本来なら、一人でも手が欲しい状況だろうが、これだけは譲れない。
スゥと必ず一緒に行動する。
そう心に決めている。
食料チップを口に放り込みながら、再び歩き回る。
今回は、あちこちで聞いて回ることができる。
最初は、すぐに見つかると思った。
しかし。
「いったい、どこへ行ったんだ」
ようやく得た情報は、ンドペキを困惑させるものだった。
街はずれに向かうのを見た、と。




