292 当てにならない
いくつもの部屋を通り抜けた。
市民が毛布にくるまって眠っている。
それぞれの部屋に数十人ほどが、てんでばらばらの方を向いて、床に転がっていた。
テーブルには食べかけの食事が積まれていた。
いくつ部屋を覗いても、チョットマやライラの姿はない。
寝ているのを見つけたら、それだけで安心できる。
そう思って探すのだが、見つからない。
後ろに足音を聞いて、振り返った。
「一人にしないでよ、こんなところで」
スゥだった。
「悪い」
「チョットマ?」
「ああ。いないんだ」
「朝になれば、顔を見せるんじゃないかな」
「かもしれない。でも、気になる」
「あんなチョットマ、初めてだもんね」
「ああ」
ンドペキとスゥは、次々と部屋を通過していった。
「あれ、ここ、さっき見たか?」
どこも同じような作りで、区別がつかない。
「ねえ、戻れる?」
ハッと気づいた。
戻れない!
「しまった!」
「はあ!」
迷ってしまった。
「困ったな」
「しっかりしてよね」
「やれやれ」
急速に頭が動き始めたが、後の祭。
ぼんやりした意識のまま歩き回って、迷子になってしまった。
「とりあえず、大通りはどっちかな」
大通りを横切ってはいない。
出さえすれば、帰り道が分かるのではないか。
「出たね」
プラタナスの並木道。
東西に走る大通りは二本。
「なんて道だっけ」
聞いたはずだが、記憶にない。
「どっちが東?」
「さあ」
「私たちの部屋、この大通り沿い?」
「さあ」
「看板もないし」
ストリート名を書いたサインもなく、大通りに出たところで意味はなかった。
「参ったな」
「どんな花が咲いてた?」
「うーん。黄色い花だったような気が……、紫だったかな……」
「当てにならない」
とりあえず、右手へ行ってみることに。
思い返せば、ここへ来てからのすべての記憶が曖昧だった。
疲れ果てていた。
頭はまだぼんやりしたまま。




