286 無事に帰れたかどうか、知らんがな
「ふう!」
ライラがまた大きな溜息をついた。
「で、あんた、ここで何を」
「思案していたのさ。もう、エリアREFに戻るべきか、と。俺は、こういう状況になって、タールツーからの指示が途絶えたことが不安になった。これでも宮仕えなんでな」
「で?」
「ところが、タールツーなんてやつはいないじゃないか! いや、いたにはいた。ニューキーツ治安省長官としてのタールツーは! しかし、数年前に解体処理になってるんだ! 廃棄処分じゃないぞ! 解体処理だ! アンドロの! どういうことか、わかるか!」
それを知って、無性に自分の部下達が懐かしくなったのだという。
「俺はもう、役なしだ。ほとんどのアンドロと同じようにな!」
バーのマスターは、急に弱気な顔つきになって、ぼそりと言った。
「仕事のないアンドロなんて、頭の固いただの人型ロボット。自分じゃ何も決められない。それならせめて、あいつらと一緒にまたバーを。そういうことさ」
チョットマは、ふと、一つ目のお姉さんを思い出した。
「チョットマ!」
「え?」
「あんたの歌の先生。生徒が最近来ないって、心配してたぞ!」
「……」
そうか……。
この男も普通のいい人……、なのかも。
アンドロだけど。
スパイだけど。
サリの件と無関係なら。
そう思おうとした。
「でも、もう」
「会えないか?」
「帰れないし」
「帰れるさ」
「えっ?」
「さてと」
マスターがライラに声をかけた。
「ということで、俺は向こうに帰ろうと思う。あんたらの次元に。一緒に行くか?」
「私の娘のことは!」
「ん? パリサイドか? あ、言ってなかったか」
マスターがわざとらしく、目を丸くした。
「二人、瀕死の状況だった」
ライラもホトキンも、そしてチョットマも、息を呑んだ。
「ここでは治療ができない。マトやメルキトならともかく、パリサイドときてはな」
「どこに! 今、どこにいるんだい!」
「付添をつけて、あんたらの次元に帰ってもらった。無事に帰れたかどうか、知らんがな」




