283 ヘルシードと言えば、思い出すか!
溶岩はすぐさま変化を始めた。
「パリサイド二人、見かけなかったかい」
ライラが畳み掛ける。
たちまち人の姿になっていくアンドロに、
「急いでいるんだよ」と、噛み付かんばかり。
「口だけでもきけないのかい!」
ホトキンが袖を引くが、ライラの口は収まらない。
「くーぅ、イライラする!」
「ライラ。ちょっと待って。口ができないと喋れないじゃない」
「そんなもんかい」と、今度はニニを睨みつける。
溶岩はやがて立派な体躯を持つ男の姿になった。
ギラギラした目に、いかつい顔つき。
色の抜けた灰色の髪はぼうぼうで、襤褸を纏った姿は放浪者のようだ。
男がようやく口を開いた。
「ばあさん! 相変わらずだな! ライラらしいぜ!」
男が豪快に歯を見せて笑った。
「ん? 俺を覚えていないのか!」
大男に負けじと小さな老婆が背筋を伸ばす。
「知らないね! それより!」
ガハハハ!
「そう急ぐな。ちゃんと教えてやるから! それより! 俺を思い出せ!」
「知らないね! 何度言わすんだい!」
「けっ! 残念だ! ヘルシードと言えば、思い出すか!」
「は? ん!」
見る間にライラの顔に驚きが広がっていった。
「あんた! ヘルシードのマスター!」
「そうともさ!」
「アンドロだったのかい!」
ガハハハハ!
「名はたしか」
「名はどうだっていいさ!」
「イエロータド!」
「いやあ、ライラ! 久しぶりだな!」
バー・ヘルシードのマスターが、チョットマに向き合った。
「お嬢ちゃん。んっと、そう! チョットマだな!」
ヘルシード。
エリアREFのバー。
チョットマがライラと初めて会ったのが、この店のカウンターだった。
そして今は、ホステスの一つ目のお姉さんに、歌を習っている。
「どうだい! ちいとは酒でも飲んでみたら! いつも、ソーダー水とイチジクじゃ、つまんないだろ!」
と、言っておいてマスターは、
「ライラ! 俺の話を聞いてくれ!」と、がなりたてた。
ハイ……、と応えるチョットマの声など、もう聞いてはいない。




