281 六十七の街それぞれへのゲート
この辺りにいるはず、という場所にサブリナはいなかった。
オーエンの妻、サーヤの姿も。
それどころか、誰の姿もなかった。
先ほどの空間と同じように、灰色の世界が広がっているだけ。
チョットマはスミソの懐からそろりと顔を出した。
ニニは抱きついてきたが、ライラはちらりと目線を送って来ただけ。
しかし、その目には優しさが込められていた。
チョットマは、ごめんなさい、とだけ言った。
心から、ごめんなさい……。
ライラは明らかに落胆していた。
「ほんとに親不孝な娘だよ」と、何度も呟いて。
そんなライラにかける言葉はない。
ニニにもチョットマにも。
「ニニ」
「はい」
「あんた達の街に入ったってこと、考えられるかい?」
「サブリナとサーヤが? そうねえ……」
もし、二人がこの次元に来たとき、現在のような状況だったとすれば、すぐさま帰ってオーエンやホトキンに報告しただろうか。
大丈夫みたいだと。
あるいは、もう少し様子を見るために、街の方へ行ってみただろうか。
どちらに進めばいいのかわからない中を?
いや、その時点では周りにアンドロがたくさんいただろう。
きっと周りのアンドロに聞いてみたはずだ。
「可能性はあると思うけど……」
街まで行って確かめなくとも、二人はホームディメンジョンに戻ったのではないだろうか。
事態が切迫していることは二人は知っていたはず。
現に、オーエンは見切り発車という賭けをしている。
街のまで様子を見に行ったとは考えにくいのではないか。
とは思うが、では他にどんな可能性が。
その答えは、軽々しく口にできることではない。
しかしニニは、アンドロ。
「もし、ここが元のままだったら、かなり厳しかったでしょうね。それとも、パリサイドの体だと大丈夫だったのかしら」
「うー」
ライラが唸り声をあげた。
「ニニ!」
「はい」
「じゃ、サブリナはどうなったっていうんだい!」
「んーと、パリサイドじゃないからよくわからないけど、重力に押し潰されても、何らかの跡はあるはずなんだけど」
サブリナの肉体の痕跡とまでは言わなかったが、平穏では済まなかったということだ。
「跡形もないというのは変だと思うんだけど……」
確かに、そこら中探しまわっても、灰色の空間には石ころひとつ落ちていなかった。
「この辺りにあると思うんだけど。ニューキーツのゲートの位置、ここだから」
この灰色の空間に、六十七の街それぞれへのゲートが並んでいるのだという。
「もう、消えてしまってるけど」




