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190 一億二千万キロ

 ンドペキは、イルカの声を聞きながら、この水中の環境を把握しようとした。


 動きは緩慢。

 重力はそれなりにあるようで、体が浮き上がっていくことはない。

 呼吸は普通にできる。

 声も出すことはできる。

 それならば、武器を発砲することもできるはず。

 ただ、この環境を作り出している装置のエネルギーに対抗できるのか、それだけが問題なのだろう。



「帰ってくれないかな」


 イルカの声が静かに響いた。


「僕はこの空間を未来永劫継続させたい。そのために、もし条件があるなら……」



 とうとう水を向けられた。


 スゥの言葉を信じて、イルカの声に耳を傾けてきた。

 今ここで、何らかのアクションや応答をすれば、システムは新たな展開を見せるだろう。


 イルカは返事を待つように、また体を旋回させた。

 今となっては、この問いかけに応えざるを得ないのかもしれない。


 この空間を展開しているのは何らかの装置。

 そこに、アギの意識が充満している。

 いや、アギがこの装置を稼働させているのかもしれない。

 オーエンのような。



 こいつを本物のアギとして、対応するしかないのか……。

 ここがエーエージーエスのような莫大なエネルギーを使って生成されているなら……。


 地球内部から取り出されるエネルギーシステムと直結し、無尽蔵に使うことができるエーエージーエス。

 もしやエーエージーエスが。

 オーエンが。



 対抗はできない……。



 とはいえ、自分たちの目的を話すわけにはいかない。

 腹を括った。


「ここから出る方法は?」


 入って来た穴は、たちまち自動修復され、もう後ろを振り返っても、海底の世界が広がっているだけ。



 イルカが口を開けた。

 細かい歯が見えた。

 しかし、黙っている。


「うーん」


 予想通り、いい返事ではなかった。


「無理なんだ、と言いたいわけじゃないけど……」


 イルカが歯を見せ、笑ったように見えた。


「出入り口は、一億二千万キロ先の……」

「なに!」


 常識外の距離だ。

 ふざけたアギに弄ばれてたまるか!



 ついに、ンドペキは発砲した。

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