27 アンドロの涙
思わず身を乗り出した。
「私はね、ハイスクールには行ってないよ」
ニニが少し朗らかな声を出した。
「アンドロだしね。アンジェリナはメルキトだけど」
ニニはアンジェリナの任務については語らなかった。
自分の役割も。
その代わり、毎日がどんなに楽しかったかを話してくれた。
セオジュンの名が頻繁に出てきた。
私たち三人という言葉も。
セオジュンが、私の誕生日に……。
セオジュンはいつも……。
セオジュンが、私たち二人を……。
私たち三人は、よく……。
そんな話をしながら、ニニがまた涙ぐんだ。
「どうして……」
いなくなってしまったのか。
ニニの涙は次々と零れ落ち、声にならなくなっていった。
「三人いつまでも一緒だって、あんなに……」
そして、嗚咽をあげ始めた。
チョットマは貰い泣きしそうになりながらも、先を促した。
「卒業式の朝、一緒だった?」
ニニは首を横に振った。
「私、準備のために、先に学校に……」
尋問調に聞こえないようにと祈りながら、言葉をかぶせた。
「朝、アンジェリナはいつもと変わりなかった?」
またニニが首を横に振った。
「ううん。朝、起きるといなくて……」
前夜、ニニの発案で三人が集まり、この部屋で小さなパーティをしたという。
いつものようにはしゃいで、色々な話をして。
夜遅く、セオジュンがこう言い出したという。
今は僕たち三人、こうして集まって遊んでいるけど、これからはそれぞれの役割を果たすときが来る。
でも、そうなっても友情は消えない、と。
「セオジュンは卒業したら政府に勤めることになってるから。だから、そんなことを言ったんだと思った」
ニニが涙を拭い、きっぱりと言った。
「私、その言い方がなんとなく気に食わなかった。だって」
アンジェリナはセオジュンの言葉を聴いて、大きく頷いたという。
「私、そんなこと、考えてみたこともなかった。なのに、アンジェリナは分かってる、というように……」
ただ、セオジュンは将来のことなど、なにも話さなかった。
ニニはそのことも心に引っかかるものを感じたという。
本当は、セオジュンの夢、そんなことを聞きたかったのに。
なんとなく、かすかな疎外感を感じたというのだった。
「そうなの……」
チョットマの口からは、そんな言葉しか出てこなかった。
三人がどんな友情を紡いできたのか、私にはわからない……。
正直に言えば、興味もないかも。
私の心の中にあるのは、セオジュンだけ。
アンジェリナには何度か見かけた程度。レイチェルのSPだから。
親しくもないし……。
と、ニニが挑戦的な目を向けてきた。
そして、その口から出た言葉に、思わず目を剥いた。
「ねえ、チョットマ。これでどう? セオジュンとアンジェリナの行方を捜せる?」
「えっ」
何も応えられないでいると、ニニが唐突に立ち上がった。
「あなたに何が分かるの! あなたのパパに、何が分かるというの!」
「そんな……」
「首を突っ込まないで!」
あっ。
チョットマは生まれて二度目の平手打ちを味わった。
「放っておいて! 私たちのこと!」
そう叫びながら、ニニがまた、たちまち涙声になった。
「ごめんなさい……」
「ニニ……」
「ごめんなさい……」
チョットマは打たれた頬を手で押さえながら、テーブルに溜まっていく、ニニが落とした涙を見つめた。