247 私が死ねば……
「私、実はキャリー。死んだとされている前長官」
レイチェルは、キャリーとして話すのだ、とさりげなく強調した。
頭を垂れ、顔を伏せている。
「ホメムの中では若い方と言われても、残念ながら妊娠できる年齢じゃない」
それに、そんなおばあちゃんを誰が好きになってくれる?
誰が結婚してくれる?
というか、年頃の頃だって、相手になってくれそうなホメムはいなかったんだけど。
ベータディメンジョンから、若い女の子になって戻ってきて、ちゃんと恋をして、結婚して、子供を産んで。
もうここまで来れば、相手はホメムじゃなくていい。
マトでも、メルキトでも。
そんな妄想に取りつかれた。
ううん。
妄想じゃない。
私は、キャリーは、本気だった。
でも、ベータディメンジョンへはアンドロ以外、行くことはできない。
肉体的に。
アンドロでない私が向こうへ行けるタイミングはただ一つ。
太陽フレアが襲ってきて、カイロスが不調に終わり、ゲントウの作ったもうひとつの装置、ベータディメンジョンを安定化させる装置が動いた時だけ。
不謹慎よね。
私は、その時を今か今かと待っていたのよ。
何年も何年も。
歳はどんどん取っていく。
焦燥は募るけど、待つしかない。
でも、その前に問題が発生してしまった。
タールツー。
アンドロである治安省のトップ。
彼女は要求した。
アンドロを解放し、人としての当たり前の感情と、妊娠できる身体を与え、平等な地位を与えよと。
新しい社会を提案したのね。
でも、世界中のホメム達は認めようとしなかった。
私が悪いのよ。
中途半端にタールツーの肩を持ったものだから。
ホメム達はタールツーの粛清を申し入れてきた。
これは地球政府転覆罪に匹敵する大罪だと。
でも私は、タールツーを治安省の長官に据え置いたままだった。
彼女の要求はもっともなことと思っていたから。
しかし、それが失敗の元だった。
そんなタールツーの元に、同調するアンドロが集結し始めた。
それに加えて、アンドロ達の社会にタールツーの主張が少しずつ浸透していった。
ついに、私はホメム達の圧力に抗えなくなった。
そして、タールツーを解体処理に。
数年ほど前のことです。
彼女には本当に申し訳なかったと思います。
私の優柔不断さが、彼女を滅ぼしてしまった。
その時、治安省長官という重責ではなく別の役に就けてあげていれば、もっと違う人生だったかもしれないのに。
でも、私は思いついた。
これは、使えるかもって。
このタイミングに……。
ね、キャリーって悪い人でしょ。
タールツーが解体されるというのに、まだ自分のことしか考えていなかった私。
元々、時間を遡って若い女の子になってからのことは、たいして考えていなかった。
その女の子が、誰の子か、なんてことは。
あいまいな計画だった。
ホメムであることを誰かが認めてくれれば、どこかの街でホメムとして生きていき、誰かホメムが死んだときにその街の長官に就任する。
そんな程度でしか、考えていなかった。
そんな私が考えついたこと。
そうだ。
私が死ねばいい。
私の子だと称する若い女の子を残して。
そんなストーリが頭を掠めていった。




