242 約束を破ることになる
セオジュンはハワード。
意識は引き継いでいる。
しかし経験は別物で、思考も別。
つまり、セオジュンの過去はハワードだが、別人格としての道を歩む。
「そういうことだったのね……」
チョットマが目頭を赤くしていた。
「ハワードっていい奴だったよな。昔、チョットマは煙たがってたけど」
「うん……」
「だからセオジュンは、約束を破ることになると思ったんだな」
「アンジェリナと……」
「そういうこと」
セオジュンはハワードとして、チョットマを見ていたんだと思う。
しかし、チョットマがセオジュンを意識するころには、既にアンジェリナと行動を共にすることを決意していた。
「レイチェルが治癒した暁には、自分の愛を全うしようと」
「だから、私に」
「そう。だから、ああ言って、断りを入れたんだ」
ンドペキはまたワインを口に含んだ。
ますます喉が渇く。
次は水。そして、ポテトに手を伸ばす。ビーフが散らしてある。
パリサイドが作った地球の食べ物。
「さあ、アンジェリナ、セオジュン、ハワード失踪事件、そしてレイチェル救出作戦の全貌は以上だ。なにか、質問は?」
チョットマが手を挙げた。
「聞いていい?」
「いいよ」
「あの、サリは。サリは? 助けられなかったの?」
「聞くだろうと思ってたよ」
「サリも助けられたの?」
「実は、この一連の事実を想定した時、俺は一つの結末を恐れた。レイチェルがサリを抹消したっていう」
「そんなっ!」
「大丈夫。レイチェルはサリに殺されかけた。でも、サリを消す気にはならなかった。二人は和解した、と聞いている」
チョットマの安堵の溜息に、部屋の空気も緩んだ。
「チョットマ、この船に避難してきた市民の中に、サリに似た人、見てない?」
「えっ、あ、あああっ!」
「そういうこと。でも、彼女の辛い気持ちを蒸し返すようなこと、しちゃだめだぞ」
「あわわっ、了解!」
久しぶりに見た、チョットマのこんな笑顔。
「ロクモン隊員。彼らは助けられなかった。装甲を着ていたので重すぎたのだろう」
ハワード、いやセオジュンの名誉のために、そう言っておこう。
助けて欲しいと依頼したのはレイチェルのみ。
一人のパリサイドでは、レイチェルとサリだけで手一杯だったと聞いているが、あえて明かすこともない。
「じゃ、次の話に移ろう。こまごました謎。これを解明していこう」
ンドペキは時刻を確認した。
ピッタリだ。
「でも、その前に、特別ゲストを!」
ンドペキは自ら作戦室の扉に近寄った。
示し合せていた通り、ドアの隙間にピンク色の紙が挟まれてあった。
外で待っています、と記されたメモが。




