240 あいつ、そんな役者じゃない
「実は、違う」
誰も何も言わなかったが、ホトキンだけがにやりとした。
そう。ホトキンには仕組みが理解できている。
いつも、エーエージーエスでアンドロが時間を遡ってくるのを見ていたのだから。
「というのは、もしハワードだったら、ハワードが二人存在することになってしまう。このニューキーツに」
紛らわしくないかい?
時間を遡ったとしても、わずか一月かそこらだ。
十年も二十年も遡るわけじゃない。
ハワードは、あのハワードの姿のまま出現したらどうなる?
もし我々がその二人を見たら、なぜ?ということになってしまう。
アンドロの世界では問題にならなくても、俺達は間違いなく、ハワードに詰問したはず。
いったい、どういうことなんだ。お前は本物か?
どういうつもりなんだ。何を企んでいる、とね。
ハワードにとって、それは避けねばならないことだった。
この計画は、秘密裡に実行されなければならないから。
「言っている意味、わかるよな」
ンドペキは床に座った全員に目を向けたが、ついて来れない者はないようだ。
「わかるよ。続けて」
チョットマがそういって、先を促した。
「こういう場合は考えられるかな」
コリネルスが話を先回りした。
「レイチェルが殺される前、洞窟に現れたハワードが、時間を遡ってきたハワードだったってことは? つまり、事前にレイチェルがああなることを知っていて、パリサイドにも依頼済みだったという場合は?」
「うーん」と、チョットマが唸った。
「レイチェルが殺されたとき、実際は助かることになってる、なんてことが分かってる。そんな状況、あるかなあ」
「レイチェルがサリに実際に刺されるんだ。黙って見ていられるものか」
部屋の中で、推理が動き出していた。
コリネルスやチョットマだけでなく、いくつもの考えが出された。
「あいつ、そんな役者じゃない」
「無理だ。それに、そうする意味もない」
「というか、ハワードはあそこにいたから、そのあとどうすればいいのか考えられたんだろ?」
「そう。あそこにいなければ、レイチェルがどうして死んだのかも知ることができなかったはず」
「じゃ、どういうことになる?」
ンドペキは改めて問題を提起した。
コリネルスが、慎重に状況を整理する。
「あの洞窟に現れたハワードは、時間を遡ってきたハワードじゃない。しかし、あの時点で既に、時間を遡ってきたハワードがいたはずで、そいつがパリサイドにレイチェル救出を頼んでいたはず……。そうでなければ、レイチェルは助からない……」
「そういうこと」
「時間を遡ったハワードがいたはず……」
隊員達の口から同じ言葉が漏れた。




