239 時を遡り
ハワードの面影が蘇ってくる。
几帳面で真剣な目をするハワード。
突然感情を暴発させ、あっという間に鎮静化するハワード。
「彼はもう少し前に遡り、ある仕掛けを施しておくことにしたんだ」
レイチェルを助けて欲しいと。
「パリサイドの誰かが、そんな依頼を受けたんじゃないかと思う」
それがポイントを突いていることは、既にユウに確かめてある。
実際にはスゥに。
そのとき、ンドペキはなぜ話してくれなかったのか、とは言わなかった。
詳しく聞こうとも思わなかった。
スゥが困ることになる。
話せないだろう。
理由は、簡単。
ルールは曲げられない。
自分が知れば、エリアREFでの活動内容が変わる。
政府建物への侵攻は全く違ったものになり、カイロスの発動さえ違った形になったかもしれない。
歴史が変わってしまう。
ハワードがパリサイドになにかを持ちかけたことを、今は知っている。
しかしンドペキは、その内容をあくまで自分の推理として話す。
「ハワードの依頼は、きっとこうだ」
水中に潜んでおいてくれ。
万一のことがあれば、水中に落ちた者をその腕に包み、水系を伝って別のところへ連れて行ってくれ。
そこで、傷の治療をするからと。
そしてそのとおりにパリサイドは協力してくれた。
レイチェルは助かったんだ。
エリアREFの地下深く、どこかの部屋で傷が癒えるのを待ったんだ。
どこかとは、昔、プリブの部屋があったあのずっと下辺り。
ゴミ焼却場のブリッジで、プリブとシルバックがハワードとマリーリとすれ違っている。
大きな花束と、大きな荷物を持った二人と。
その時、嘘のつけないハワードは、苦し紛れにこう言った。
僕らのアジトがある。
レイチェルの病室をアジトと呼んでも、全くの嘘だとはいえないだろう?
彼らはレイチェルのSPなんだから。
そして、花束。
その時、シルバックが助け舟を出したんだ。
花を手向けに?
ハワードは、それに乗った。
水系へ放流するのだと。
実際は、病室で寝ているレイチェルに届けるものだったが。
「でも、ここで考えてみてほしい。パリサイドに依頼したのは、果たしてハワードか?」
ンドペキはゆっくり、この言葉を発した。
みんなの思考が、空回りしないように。




