238 アンドロがこんなにたくさんって
「ところで、マトやメルキトの俺達が全く知らなかったことがある。いや、知らなかったというより、関心がなかったというべきだな」
ベータディメンジョンに行って、俺達がいかにアンドロのことを知らなかったか、思い知らされたよ。
「驚いたことに、あの次元は、我々の時空とは構成が違う」
時間の流れさえ、流動的だったんだ。
ヌヌロッチが教えてくれたよ。
地球で消費される食料や様々な物資を生産することなど、容易いことだと。
時間の流れが速いエリアで生産すれば、あっという間に大きなブロッコリーが育つんだとさ。
「さあ、思い出してくれ。ハワードがチョットマに言った言葉。ちゃんと意味があったんだ。もう一度繰り返そうか」
私は貴方といつも一緒にいます。
これからもずっと身近なところで。
でも、私の姿は見えなくなるでしょう。
心配しないでください。
「どう? わかったかな?」
ハワードは、姿を変えてチョットマの前に現れるつもりだったんだ。
きっと、その時、既に彼は計画を持っていたと思う。
レイチェルを生身の体で救い出す計画を。
ベータディメンジョン。
時間の流れはコントロールできない。
しかし、流れに乗ることはできる。
増加する一方のホメムやマトやメルキトの要求に応えるため、アンドロは時間を遡っていく。
そうやって、実質的な労働力を増やしてきたんだ。
「どういう意味か、わかる?」
誰からも声はない。
「マリーリは言ったんだ。何代も前から長官のSPをしていると。アンドロもわずかずつ歳を取るのに?」
時間を遡ればなにが起きる?
たとえば俺が時間を遡れば、どうなる?
簡単なこと。
俺が二人いることになる。
もう一回、遡れば?
俺が三人。
世界中にアンドロがこんなにたくさんいるって、おかしくないか。
いつ、誰が、どれだけ製造したんだ?
数百年前ならいざ知らず、今、地球上のどこでアンドロが製造されているんだ?
結婚もしない、子供も産まないアンドロがなぜこんなにたくさんいるんだ?
ということ。
もう、疑問の余地はない。
時間を遡ることは、アンドロにとって特別なことではなかった。
その証拠に、あの次元の門のところで、門番の少女やヌヌロッチは、現時点でいいか、少々遡るかなどと聞いてきたのだ。
「ハワードは時間を遡るつもりだった」
では、どの時点に?
レイチェルがサリに刺され、水系に落ちた時点?
そのことをなかったことにする?
大きな歴史は変えられない。
これはルール。
ルールは曲げられない。
もし、レイチェルがサリに刺された、あの出来事を変えることができたとしよう。
しかしその後、どうなるかわかったものじゃない。
何が起きるのか、誰にもわからない。
ハワードはアンドロ。ルールを曲げるようなことをするはずがない。
リスクを冒す気もなかった。
だから、もう少し前に遡り……。




