231 記憶容量が小さいとか
「チョットマが作ったの?」
シルバックの目が潤んでいる。
「まさか。一つ目のお姉さんが隊のためにって」
ありがとう! チョットマ!
歌を聞いて、こんなに泣いたのは初めてだ!
チョットマ! ずっと僕の傍にいてくれ!
いつか、いつか、また狩りに行こうな。
そんな言葉を口々に、隊員達が三々五々、帰っていく。
晴れやかな笑顔で見送っていくチョットマ。
「あなたこそ、すっと一緒に居てね」などと、声を掛けながら。
掛け合う明るく弾んだ声とは裏腹に、誰の心にも、楽しかった思い出だけではない何かが撃ち込まれたことだろう。
亡くなった仲間たちへの思いが去来した者がいるだろう。
自分たちが成したことを、本当に正直な気持ちで振り返った者もいるだろう。
忘れていた感情を呼び覚まされた者もいるだろう。
失った記憶を少しだけ手繰り寄せた者もいるだろう。
昔愛した人を、今愛している人を胸に描いた者もいるだろう。
この社会、この地球、そして人類の未来に思いを馳せた者もいることだろう。
俺も初めて聞くチョットマの歌声に、心を打たれた一人。
チョットマよ。
アンドロの次元で、その心の弱さをさらけ出したチョットマよ。
そんなおまえだからこそ。
すべてを乗り越えてきたおまえだからこそ。
この歌は、意味を持つんだ。
思えば、何度チョットマに助けられたことだろう。
おまえの存在そのものに。
そうだ。
それこそ、おまえがそばにいてくれたからこそ。
歌の通りだ。
今、チョットマは緑色の髪をいじって、チラチラと視線を送ってくる。
あどけなさの残るかわいい顔。
かと思えば、イコマと、アヤと、スゥと一言二言交わしては笑っている。
握手を求めたスミソとプリブには、代わる代わる抱きついて彼らをうろたえさせている。
もう一度こっちを見てくれ。
ウインクで返すよ。
レイチェルのクローン。
恋人探しのお人形。
そんなレッテルも、隊随一の俊敏さという冠も、もうおまえには必要ない。
いや、そんな言葉だけでは言い表せない。
頭が弱いとか、記憶容量が小さいとか、もうそんなこと、言うんじゃないよ。
本当に、本当によくやった。




