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229 今にして思えば

 ユウ。

 パリサイド名JP01。


 忙しく、帰宅はいつも深夜。

 それでも帰ってくればいい方。


 しかし表情には、大仕事をやり遂げた喜びがある。

 かつて、二十世紀最後の頃、阪急東通りや心斎橋、京橋や天王寺で遊んで回った頃、イコマとユウが知り合った頃の三条優にすっかり戻っていた。


「ノブ!」と呼んでは駆け寄ってくる。

 そんなユウに。


 イコマは走馬灯のようにあの頃のことを思い出す。

 自分の思いを真っ直ぐに伝えられない、ふがいなかったあの頃を。



 イコマ。


 かろうじてパリサイドの体を持つことができた。

 きっとユウが、最後に捻じ込んでくれたのだろう。


 もうアギではない。

 これからは、記憶は普通に失われていく。

 しかし、忘れることはない。

 何百年経とうとも。

 ユウ、ありがとう!



 スゥ。


 ユウが作ったクローン。

 ニューキーツ近くの海岸でユウに襲われ、意識を同期した。

 それからというもの、彼女は苦しみ続けてきた。

 自分の意識と、ユウの意識との間で。

 なんとか自分を保とうと。


 既定だったとはいえ、ンドペキを愛し、それが成就した。

 もしかすると、ユウ本人より幸せになったといえるかもしれない。

 ささやかではあるが、船上で結婚式まで挙げたのだから。


 ンドペキとアヤとの家族。

 これ以上の幸せがあろうか。


 あっさりした顔をしながらも、人知れず喜びに震えていることがある。

 これを知っている人はいない。



 ンドペキ。


 ユウが作ったイコマのクローン。

 死にたい。自分の無為な生を終わりにしたい。そんな考えに取りつかれていた自分に、新鮮で薫り高い風を送り込んでくれたスゥ。

 今にして思えば、洞窟で見せたスゥの涙。

 あれが生きる希望になったのだった。


 ンドペキは思う。


 自分が今あるのは。

 スゥだけではない。

 チョットマ。

 隊のみんな。

 ハクシュウ。

 感謝してし過ぎることはない。


 家族の時間を持つため、隊のリーダーはスジーウォンに代わってもらうことにした。

 ありがとう、スジーウォン。引き受けてくれて。

 今から、発表させてもらうよ。




 東部方面攻撃隊の同窓会。

 すなわち、あけぼの丸自警団の結団式。


 そして、新団長スジーウォンの決意表明が中心の作戦会議。

 最後に、ンドペキがメッセージを。

 そんなプログラムで、会は始まった。




「レイチェルとマリーリは船長と会議です。遅れて参加してくれると思います」

 司会のシルバックが報告した。

「では、恒例。みんな車座に座って。ゲストの皆さんも、よろしくお願いします!」


 もちろん、ヘッダーをつけている者はいない。

 自分の苦労を殊更に語る者ももういない。



 作戦とは。

 スジーウォンが既定方針を確認した。

 いつものように、いくつも意見が出された。

 こんな場合はどうする?

 優先事項は、どっち?



「これで、作戦会議は終わりです! さあ、皆様お待ちかね! わが隊最高のアトラクション! ショータイム! チョットマ! 歌ってくれます! そばにいつも!」

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