214 誰が言うともなく、そういうことに
ヌヌロッチに案内されながら、ンドペキは気になっていたことを聞いた。
「ところで、人の姿がないんだが。別の場所に?」
アンドロの人口は、百万はあるばず。いや、もっと。
さっき、今いるのは数百人と聞いたが、どういう意味なのか。
この次元の街は、このイダーデだけだとすでに聞いている。
ここから地球上の各街に出勤していくことも。
それなら、この街にアンドロがひしめいているはずではないのか。
ところが、ほとんど人の姿を見かけない。
「何といいましょうか……」
ヌヌロッチは言い難そうに、言葉を濁した。
「実は……、ワークディメンジョンに移動しました」
「え、さっきからいうワークディメンジョンってのは?」
「あなた方の次元です。私たちにとってそこが仕事場。だからワークディメンジョンです」
「なるほど。出勤したわけだな。ニューキーツのアンドロは?」
「いいえ。ここに残っているのは、ここでの仕事があるアンドロだけです」
ニューキーツのアンドロは政府建物での戦闘のために、出勤を見合わせていたのではなかったのか。
政府建物内にいたアンドロも、兵も含めて、次元のゲートを超え、こちらに戻ってきたのではなかったのか。
それほど、政府建物内では人を見かけなかった。
「おっしゃるように、一旦は、イダーデに集結という状況でした。しかし、ワークディメンジョン、つまりあなた方の次元に移動することにしたのです」
「うーむ。なぜ? どうやって……」
「誰が言うともなく、そういうことになりました。今ここに残っている者は、向こうで必要な物資を供給する、そういう仕事に関係した者だけです」
「そうなのか……」
「言っておきますが、ワークディメンジョンに移動したことは、向こうを我が物にしようという動機ではありません。あくまであそこが私たちの仕事場ですから」
なんということだ。
自分達はアンドロの次元に避難してきたというのに、アンドロ達は自分の仕事をするために、つまり我々を助けるために、あの次元に大挙して戻ったというのだ。
「太陽フレアが怖くないのか?」
「さあ。私達も人と同じく普通の体を持っています。少しは違いますし、強靭でもありますが、無事で済むとは……。なんらかの……」
と、ヌヌロッチは肩をすぼめた。
「それじゃ……」
「いいんじゃないですか」
そしてあっさり笑った。
「私達は、ワークディメンジョンでの役割があってこその存在」
「んー」
「ホメムやマトやメルキト、そしてアギがいてこその存在なのです」
「とはいえ」
「彼らが危機に直面しているのに、私達がここにいても意味がないのです」
「むう」
「何ができるのかわかりませんが、行かねばなるまいと」
「それで、ヌヌロッチも」
「いえ。私は、長官からの指示があり……」
「ん?」
「タールツーの署名がありました。避難してくる市民の対応をするようにと」
「そうだったのか」
「先ほど、レイチェルからも書簡が届きました。SPは解任だそうです」
「えっ!」
「ちゃんとレイチェルのサインもありました」
ピンクのハートマーク……。




