202 戻るしかないのか
芝生広場での出来事の後、アヤは取り残されてしまった。
本来、スジーウォン隊に合流するつもりで、一足先に正門へ向かったのだが、そこで群衆に飲み込まれてしまった。
ンドペキとスゥが群集に揉まれながら、回廊を移動していくのが見えていた。
スジーウォンと会わなければ。
それができないなら、ンドペキと行動をともにしなければ。
気は焦るが、動こうにも動けなかった。
ようやく身動きができるようになって、イコマと合流した。
フライングアイは別次元への移行はできない。
どうする。
アヤはほとんど悩まなかった。
決めたのだ。
私の家族はンドペキとスゥ。
イコマと別れることは辛かったが、それはいずれ訪れること。
それが今。
「おじさん」
「アヤちゃん」
「お別れね」
「そうだね」
「これまで……」
後の言葉は続かなかった。
なにを言えばいいのかわからなかった。
しかし、涙は見せられない。
スジーウォンが近づいてくるのが見えたから。
スジーウォンが隊を纏めようとしていた。
通信は使えない。
隊員を探して、辺りを走り回っていた。
アヤは、スジーウォンに断った。
建物の奥へ向かう。
すなわち、アンドロの次元に移行するつもりだと。
スジーウォンは止めもしなかったが、後から行くとも言わなかった。
考えがあるのだろう。
隊長次席としての。
政府建物も停電のおかげで、薄暗い。
行けどもいけども、何の変化もない。
次元移行のゲートがあるはずなのに。
白い壁と天井が続いているだけ。
空調によって冷やされた空気が熱を帯び始めていた。
ところどころ、ンドペキ達が破壊した跡が残るばかりで、一向にゲートを通過する気配はない。
とうとう最奥部に到達した。
もう無駄だ。
ゲートは閉じたに違いない。
そう思うと無性に悲しくなった。
「どうすれば……」
「アヤちゃん」
「はい……」
しかし、イコマからも答は聞けなかった。
アヤは涙が流れていることを感じた。
ゴーグルの中でもそれとわかるほど、次から次へと。
一旦、戻るしかないのか。
どこへ?
隊に合流するか。
でも、ンドペキやスゥのいない隊には……。
少なくとも、見知った人がいる。
スジーウォン。
それだけでも心強いとは思う。
でも……。
考えがまとまらなかった。
なにをすればいいのか、全くわからなかった。
周囲には、同じように呆然としている多くの市民。
頭を抱えている者もいれば、泣き叫んでいる者も。
誰も、他人のことなど気にしていない。
目を血走らせ、ただただ走り回っている者もいた。