201 イダーデ
「では次に、この次元を満たしているエネルギーについて」
本来、この次元のエネルギーは莫大で、常時渦巻いているという。
「いわば、太陽のコア部分と思えばいいでしょう」
市民のどよめきがいっそう大きくなった。
「それを遮断するため、コンテナが作られています」
ヌヌロッチが上空を指差す。
「ここは、実はコンテナの中です。この次元にしかない物質によって作られています」
数百年の間、コンテナが破損した例はないという。
「安全です。完璧に管理されています。ただ、それはアンドロにとっては、という意味です。生身の人間にとっては過酷過ぎて、一瞬たりとも存在できないでしょう」
おい。
それは話す必要があるのか。
市民の不安を煽るだけではないのか。
ンドペキはそう思ったが、自分が聞いておきたいという気持ちが勝った。
「コンテナ、つまりバリアは、この次元に渦巻くすべてのエネルギーを遮断するようにはできていません。ここで使うエネルギーを得る必要もありますし、コンテナ自体を保持するエネルギーも必要ですから」
太陽コアほどではないにしろ、かなりのエネルギーがコンテナ内に流れ込んでくるという。
「ほとんどのエネルギーは重力に転換されます。なので、エネルギー量が多いときには、相当の重力がかかることになります」
立っていられないどころか、呼吸や脈動にも支障が出る。
ひどいときには、人体組織の細胞が崩れ始めるという。
「人の形を維持することさえできないのです」
「これから、街で石を見かけることがあるでしょう、それは人です。眠っているのです。いつ何時、どんな重力に見舞われようとも大丈夫なように、姿を変えているのです」
あ、ニニのあの姿はそれだったのだ。
ヌヌロッチは、ただ、と声を張り上げた。
「今、この次元は人が住む環境に生まれ変わりました! コンテナのバリアの強度が増したのです! 完璧にコントロールされています! 安心していいのです!」
そして、満面の笑みを作った。
「ここイダーデに皆さんをお迎えすることができて、よかったと思っています!」
アンドロの街、イダーデ、か……。
「まだまだたくさんお話しすることがありますが、まずは落ち着かれてから、ということで」
そういって話を締めくくった。
ンドペキはヌヌロッチが安心していい、と言い切ったことに違和感を持ったが、ことを荒立てる必要は全くない。
大移動が始まった。
ンドペキとスゥは、ヌヌロッチとともに、行列の最後尾を歩いた。
ゆっくりした歩みだ。時として停止する。
さまざまなことを話し合った。
もちろん、大部分はこれからの市民生活のこと。
そして前長官キャリーのこと。
この次元の環境をコントロールする装置のこと。
歩くこと一時間。
そろそろ歩くことに疲れた人が出てくるころ、ンドペキは目を疑った。
ひとつの門を通った。
目の前に広がった光景!
イダーデの街!
ここが!
すごい!
スゥの口から驚きが漏れた。