200 慣れてもらうしか
チョットマが心配ではあるが、ニニ、スミソ、ライラと一緒なら任せておいていいだろう。
ンドペキは市民の前に戻った。
アンドロの救援隊であるヌヌロッチの登場は拍手で迎えられるかと思ったが、そうでもなかった。
市民はすでに不安で一杯だった。
ここに来て本当によかったのか。
助かるのか。
生きていけるのかと。
新たに出現する人はもういなかった。
ゲートが閉じたのか、来ようとする人がもういないのか。
いずれにしろ、三万二千人。
わずかこれだけの人数で、新しい社会をこの灰色の空間で築いていくことになる。
そのことが身に染みて、おののいていたといえる。
前長官キャリーの姿はなかった。
ヌヌロッチは落胆していたが、ニューキーツ治安省長官として、アンドロの代表として、市民の前に立った。
そしてこの次元の成り立ちや現状の説明を始めた。
全員に声は届かない。
各グループから隊員他、二百人ほどが集まって話を聞くことになった。
市民にとりあえず入ってもらうスペースは十分にある。
食料や水なども、手配はかけてあるので、おいおい供給されるだろう、と。
「注意して欲しいことがあります」
街の構造。
東西に長い街路が二本、平行に真っ直ぐ走っている。
延長は概ね二十キロ。
そもそも方位などないが、向かって右方が東。便宜的にそう決めてあるという。
「中心部といえるのは、せいぜい八キロほどです。その外には行かないでください」
理由は、時間がないからと、ヌヌロッチは説明しなかった。
「南北にはいくつもの街路があります。距離にして一キロから十キロほどと様々です。こちらには外側に門があります。その外にも足を踏み入れないように」
危険だから、とだけ言って、次の説明に移っていく。
「最も大切なこと、地球と最も異なる点、これについて説明します。それは時間の概念です」
この次元では、時間は一定に流れているわけではない。
場所によって異なるという。
「街を東に行けば行くほど、時間の流れは速く、西に行けば行くほど時はゆっくり流れています」
市民がどよめいた。
つまり、街の西の方で長い間滞在して、東に向かえば浦島太郎状態になるというわけだ。
「しかも、その変化さえ一定ではありません」
時計は意味を成さない。
西の街では、時計の針はゆっくりと回り、東では急いで回る。
しかしそれは、平均の地点と比べてという意味であって、その場では物質の動きに合致しているため、違和感はない。
「慣れてもらうしかないと思います」
ヌヌロッチは「街」という言葉を連発していたが、どこに「街」といえるものがあるのか。
ただ灰色の世界が広がっているだけではないのか。
市民もンドペキの思いと同じだったようで、醒めた目をして話を聞いていた。