20 ヘスティアーに保護されし孤児
襲ってくる敵は、回数は多いがいずれも小隊。
「毎回、なんなんだ?」
「つまらない?」
「いや。意味が分からん」
「偵察だと思う?」
「知るか」
プリブとシルバックは警戒任務を終え、交代にきた隊員と声を掛け合った。
警戒任務は、二人一組。
プリブはシルバックと組み、ゲートFEを守っていた。ホトキンの間方面からの敵を防いでいる。
「たまにゃ、一緒に飯でも食うか?」
「そうねえ」
これから、十六時間のフリータイム。
睡眠、食事、身の回りのこと、そして娯楽。
敵襲や特別な任務がなければの話。
異性を食事に誘う、異性でなくとも同じことだが、そんなことは何百年もなかったこと。
しかし、お互いに素顔を見せ合い、心をひとつにする出来事を経た今となっては、違和感はかなり薄れた。
それに、シルバックも変わった。
以前は人を寄せ付けないためか、棘のある言動がトレードマークのような女性だったが、柔らかい言葉遣いに変わりつつある。
シルバックだけではない。
隊員たちに、変化が起き始めていた。
「ヘスティアーってのは、炉の女神なんだって。神話の」
シルバックの声は、やさしささえ帯びている。
もっと話していたいというように。
今はヘッダーを被っているが、表情さえ想像することができる。
プリブの元部屋の辺り。
人通りは以前同様、ほとんどない。
「ヘスティアーに保護されし孤児、生贄を喰らう」
「ラーに焼かれし茫茫なる粒砂、時として笑う」
二人でひとつずつ口に出してみる。
この二つの言葉を、ンドペキやコリネルスがひねくり回している。
孤児とは誰?
生贄とは?
砂が笑うって?
なんとなくではあるが、ラーに焼かれし茫茫なる粒砂というのは、つまり太陽に照り付けられた砂漠のことだろう。
となれば、これはニューキーツ西部に広がるエリアのどこかを指しているのではないか。
可能性として高いのは、光の柱の辺り。
とするなら、もうひとつのヘスティアーの方が、エリアREFに関しての言葉であると考えていいだろう、などと。
「炉か。火に関係しているんだな」
火の女神に守られた孤児が崇められていて、生贄を捧げられている、ということになる。
孤児というのは、単純に考えてレイチェルその人、だろうか。
レイチェルは孤児ではないが、それに近い境遇……。
いや、親子の関係などない今は、誰にでも当てはまるか……。
隊員たちは、普段、シェルタ探しをしているわけではない。
幹部の仕事だという意識がある。
それに、闇雲に入口を探し回っても見つかるものではないだろう。
暇つぶしの話題ではあっても、深く考えてみることはなかった。
シルバックとプリブは、ゴミ捨て場に差し掛かった。