199 しつこいついでに言っとくが
「あん? おまえ」
慌てたホトキン。
「サブリナを探すんじゃなかったのか」
渋る夫を横目で睨むと、ライラは、
「あいつも一緒に探すのさ」と、突き放す。
「ニニに協力してもらってね」
そして、ニニの体を頭からつま先まで、しげしげと眺めた。
岩の変化が遠くから見えていたのかもしれない。
「サブリナ?」
今度はヌヌロッチが関心を示した。
「私達の娘。このぼんくらによると、この次元が安定化したかどうかを見に来たらしい、っていうんだよ。娘を危険に晒す親が、どこの世にいるんだい! まったく!」
「いや、ライラ、あいつが勝手に」
「そこを止めるのが親だろ!」
サブリナはこの次元の安全を確認してきて、オーエンとホトキンに伝えるつもりだったという。
「で、結局は出てこなかった」
「えっ」
「さあね。死んだかもしれないね」
元はといえば親を捨てた娘、とは言わなかったし、ライラはライラなりに心配しているのか、
「本当に親不孝な娘だよ。やっと帰ってきたかと思えば、これだ」
と、吐き捨てた。
サブリナは出ては来なかったが、オーエンの判断では、もう待てないということだったらしい。
太陽フレアの脅威が間近に迫っている。
カイロスの装置は完璧ではなかった。
もはや、ベータディメンジョンに賭けるしかなかったということだ。
「まあ、よかったじゃないか。こうして生きてるんだから。オーエンの判断は正しかったというわけだ。今のところは」
ホトキンが胸を張った。
「いつのことなんです? その、サブリナという人がここへ来たのは」
ヌヌロッチのこの反応は珍しい。
よほど聞きたいことがあるのか、話したいことがあるのか。
あるいは心配でもあるのか。
「さあね。私達より数時間前だろうさ」
「ということは……」
「あんた、いったい、なんだい!」
ヌヌロッチが、益々渋い顔つきになった。
「ここじゃないですね」
「は? まどろっこしいね! 省長官ともあろう人が」
「違う場所に出たのではないか、ということです」
「じゃ、そこへ連れて行っておくれ!」
「えっ」
「おい! ヌヌロッチ! 親を娘に会わさないってことかい!」
「いや、そういう……」
「じゃ、早くしな!」
「あなた方が出てきたゲートは突如できたゲートです。我々が普段使っているゲートは、別の場所にありまして」
「ええい! 眠たい話はいらないよ!」
ホトキンも頷いた。
「そう。このゲートは俺が作ったんだ。今日の日のために。初めての稼動だ」
「あんたも、どうでもいいんだよ! 自慢話は寝言で言いな!」
見かねたのか、ニニが提案した。
「じゃ、まずそこへ行きましょう。チョットマやスミソも一緒に」
「おっ、ニニ、あんた、場所、分かっているのかい」
「もちろん。このゲートができる前にこの次元に来たのなら、私達がいつも使っているゲートを潜ってきたはず」
「よし!」
「だよね?」
ニニはヌヌロッチに同意を求めた。
ヌヌロッチは渋っていたが、結局は頷いた。
「しかし、あのゲート、もう使えなくなってる」
「いいんだよ! そんなことは! 戻りたいわけじゃない!」
ホトキンが付け加えた。
「あのゲートのエネルギーは地球上にある。もう稼動できないだろう」
「しつこいね、あんた!」
「しつこいついでに言っとくが、さっき通ったゲートもいつまで持つかわからんぞ。きっと、もう閉じてるだろう」
「そんなこと、誰だってわかってる。覚悟して来たんだろ、あの連中も! もう後戻りはできないって!」




