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198 出来損ないの人形

 岩の背丈がぐんと伸びたかと思うと、手足らしきものが出現し始めた。


 ぐっ。


 恐怖を感じたが、ヌヌロッチが動じないことを見て、武器に伸ばしかけた手を止めた。


 岩は見る間に人の形に変わっていく。

 黒々とした岩肌の色が抜けていき、ごつごつした表面が滑らかなものに変わっていく。

 人肌色に変わり、頭部に目や鼻が姿を現す。

 髪が生え、指が分かれ、乳房が盛り上がった。



 全裸だった。

 女……。

 若い。



 目を瞑っている。

 まだ、出来損ないの人形のように表情はない。


 が、どこかで見たような……。



 うぐっ!


 腹が割れた。


 割れ目から、布が出てきて、たちまち全身を覆っていく。

 衣服!

 それとともに、出来損ないの人形から、かわいらしい女に変わっていく。



 ついに、女が目を開け、口を開いた。



「チョットマ。どうしちゃったの」

「あっ!」



 ニニ!



「スミソっていうの? あんた達だけで、ここを歩けないでしょ」

「ニニ、なのか……」

 ンドペキの呼びかけに、ニニは少し微笑んでから、改めてスミソに向き直ると、

「どうするつもりなの?」

 と、問うた。


「どうって……」

 スミソは口ごもりながら、再びヌヌロッチを見たが、レイチェルSPは両手を広げてみせただけだ。

「まあ、当てがあるわけじゃないんだけど……」


「ここのこと、知らないでしょ」

「ああ、全く」

「あてどなく歩いてっても、なにも見つからないよ。それに、危険な場所も」

「だろうな。でも」

 聞いて回り、探し回るしかない、とスミソは言う。



「ついてってあげる」


 ンドペキの心配をニニが代弁してくれたようなものだった。

 そう言ってくれたことで、かなり安心はできるが、まだ不安は拭えない。



 あの溶岩がニニになった。

 あるいは、ニニがあの溶岩だったのか。

 どちらでも同じことかもしれないが、ンドペキは目の前の女性が本物のニニなのか、まだ半信半疑だった。


 と、ヌヌロッチが、ニニに声を掛けた。

「ニニ、そうしてくれるか」


 ンドペキはほっとして、小さく息を吐きだした。



「見て」

 今度は、老人が二人、歩いてくるのが見えた。


 ライラ!


「やれやれ、とんでもないところだよ!」

 と。


「この重力は年寄りにはきついね。もうちょっとましなものを造れなかったもんかね!」


 もうひとりの老人。

 久しぶりに見る顔。


「ホトキン……」

 声に怒りは滲まなかっただろうか。


「絶望の海から助け出してくれて、礼を言います。ありがとうございました」

 まずは礼を言うのがマナー。

 ライラはにやりと笑ったが、その夫は仏頂面を見せただけ。


「でも、どうしてここに」

「フン。命が惜しけりゃ、ここに避難、だろ。さてと、チョットマは?」


 チョットマを追って、市民グループの輪から抜けてきたという。

「ずいぶん、取り乱してたからねえ」

 と、鼻を鳴らす。

「あんなチョットマ、初めて」



 状況を説明するうちに、ライラの顔つきに厳しさが増す。

「うーん。そいつは何とかしなくちゃ。で、今、ここで眠ってるんだね」

 パリサイドの腹をつつき、

「ほんとにおまえは馬鹿だね。どこかの誰かさんが想ってくれてることも気づかないなんて」

 と、腹の膨らみに向かってささやいた。


 そして振り返ると、きっぱりと「私も一緒に行くよ」と、言った。

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