196 役立たずのお人形
パリサイドが「まあ、落ち着けよ」と手を広げたが、チョットマの口はもはや止まらない。
「私! 隊にいても何もできない! 何の役にも立てない! みんなの足手まといになってるだけ!」
「そんなことあるか!」
私!
仲間を何人も殺してしまったんだ!
私が馬鹿なばかりに!
「まあ、それは」
「スミソ! あなたは黙って!」
ハクシュウ!
隊長!
ああ、ハクシュウ……。
スミソ!
わかる?
ンドペキ!
わかる?
分かるわけないでしょ!
ハクシュウは私を守ろうとして殺されたんだ!
殺されたんだよ!
ブロンバーグに!
私!
目の前にいたのに、何もできなかったんだ!
私のために戦ってくれてるのに!
私!
何もできなかった……。
私みたいな馬鹿のために、ハクシュウは死んだんだ!
目の前で殺されたんだ!
ううううっ!
私、どうしようもない隊員なのに!
攻撃隊の恥なのに!
ハクシュウ!
どうして!
うううっ!
なぜ!
う、くっ!
ンドペキは、どうしてチョットマを慰めればよいのか、わからなかった。
ハクシュウが殺された?
その意味も理解できなかった。
プリブとハクシュウとチョットマが街に向かったかつての作戦行動のことなのか、先日のクシの事件のことを言っているのか。
チョットマ!
再び近づこうとしたが、チョットマはまた後ずさりしていく。
「来ないで!」
「チョットマ」
「私、除隊します! ううん、追放してください!」
「なに言ってるんだ」
「追放してください!」
「おい!」
「それがダメなら、ここで成敗してください! 殺してください!」
いい加減にしないか!
ンドペキはそう叫びたかった。
我慢できなくなりかけていた。
どうしたらいいのかもわからなかった。
チョットマ。
気持ちはわかる。
でも、そんなことを言ってる場合じゃないだろ。
こんなところまで来て、これから先どうなるやも知れず、避難してきた市民も大勢いる。
それだけでも絶望的な気分なのに。
「チョットマ。悪いが今は、ゆっくり話してる時間がないんだ」
「必要ないです! 話なんて! 私!」
パリサイドが、ゆっくりチョットマを抱き締めた。
その広い翼に包むように。
チョットマの体が黒い翼に隠れていく。
その間にも、チョットマは叫んでいた。
私!
なんの役にもたってない!
この髪の毛だって!
なにも!
馬鹿みたい!
くそ!
意味ない!
隊にいたって、私!
パキトポークも、お前は向こうへ行っとけって!
役立たずなんだ!
私!
やっぱり、みんなの邪魔するだけなんだ!
チョットマの体は、パリサイドの腕にすっぽりと隠れてしまった。
まるでカンガルーの子供ように全身を抱かれて。
それでもチョットマの声が叫んでいた。
「隊長……」
パリサイドが、どうしようかという目で問うている。
「スミソ……。よく帰ってきてくれた」
「ご心配をおかけして、すみませんでした」
「よかった、本当に。そうとしか言いようがないな。よかった」
私なんか!
と、チョットマがスミソの懐の中でまだ叫んでいる。
「チョットマをしばらく頼むよ」
ンドペキの言葉にチョットマがまた反応した。
ンドペキ!
なによ!
ンドペキなんか!
ンドペキなんか、何もわかってない!
ンドペキなんか!
キライ!
くそ!
レイチェルにベタベタしてると思ったら、今度はスゥと!
なによ!
ンドペキなんか!
ンドペキは思わず目を閉じた。
耳を覆いたかった。
チョットマ!
もうそれ以上、言うな!
心が伝わったのか、チョットマはやっとおとなしくなった。
ンドペキ……。
ありがとう……。
今までかわいがってくれて……。
私、役立たずのお人形みたいなものなのに。
隊を離れても忘れない……。
という言葉を最後に、黙り込んでしまった。