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194 あの群衆の中に!

 ニューキーツの前長官。

 キャリー。


 その名はイコマの知識としては鮮明にあるが、ンドペキとしてはその記憶にリアリティがない。


「どういうことなんでしょう」

 ヌヌロッチが眉間に皺を寄せる。

 こっちが聞きたいが、それとてどうでもいいことではないか。



 ん?

 キャリーが生きているなら、レイチェルは?


 死亡をもって長官の任期は切れ、他のホメムが次の長官職に就くことになっているはず。


「妙な話だな」

「私にもわけがわかりません。数年前、キャリー前長官は死を覚悟し、私にレイチェルを……」


 ヌヌロッチはそれ以上は口にしなかったが、正門にレイチェルを迎えに行ったときのことだろう。


「キャリー前長官はその前後に亡くなられたと聞いていましたが……」



 思わず、溜息が漏れた。

 まあ、いい。

 重要なことではあるまい。

 ここにキャリーがいるなら話は別だが。



 ん?

 そうか。

 待てよ。

 まさか。

 あの群衆の中に!



「さあ。行きましょう」

「ああ。まさかいないだろうな。あの中に、キャリーは」

「もう一度、よく見て回りますが」

「そうしてくれ」


 前長官がいるなら、指示を仰がねばならないかもしれない。

 肩の荷が下りるともいえる。

 しかし、なんとなくうっとおしい気持ちになった。



「誰か来る」

 スゥが遠くの群衆を見ていた。


 確かに。

 二つの点が、こちらに向かってくる。

「早々と捜索隊かな」



 ではないようだ。

 隊員ではない。

 武装していない。



 白い点と黒い点が、徐々に近づいてきた。



「ああっ!」

 緑色の髪!



「ンドペキ!」

 聞こえてきたのはまさしくチョットマの声。


 スカートを翻し、若草色の髪をなびかせて走ってくる。


 よかった。無事で。


 が、チョットマは三十メートルほど手前でピタリと立ち止まった。

 そしてもうひとり、パリサイドがチョットマを守ろうとするかのように、すぐ後ろに立った。



 チョットマ……。


 ンドペキは言葉を呑み込んだ。

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