191 一時間経って戻らなければ、捜索隊を
ベータディメンジョンに移行してきた市民は、その時点で三万人弱を数えた。
時間が経つにつれ、新たに出現する市民の数は減った。
最終的に隊員は、二十六名。
市民を概ね千人ずつのグループに分け、それぞれに連絡係という名目で隊員をつけた。
各グループは、それぞれに大きな円を描いて座らせている。
「ぬ? ヌヌノッチの野郎は?」
市民をグループ分けし終え、それでどうする、という段になって、パキトポークがアンドロの姿がないことに気づいた。
「では後ほどって、どこかに行ったぞ」
「おいおい。ここをほったらかして、どこへ行きやがったんだ」
「さあな。次のお沙汰を待つしかないんだろうさ」
「なんともはや、段取りの悪いことだな!」
しかし、待てど暮らせど、ヌヌロッチはおろか、アンドロは誰も現れない。
オーエンが言ったパリサイドも、姿を現さない。
「おい。そろそろ、ちょいとまずいんじゃないか」
パキトポークが群集を見やる。
「うむう」
痺れを切らした市民が、不安と不満を高まらせている。
「では、こっちから行動に出るしかないか」
「移動するか?」
「ああ。しかし、この大人数での移動は始末が悪い」
「だな」
「この規模の行列を維持するのは無理だ」
気分の悪い者や、老人もいる。
勝手な行動を取りたがる連中もいる。
すでにあちこちで小競り合いが起きていた。
「見てくる」
ンドペキの提案に、パキトポークが難色を示した。
「いや、隊長はここにいてくれ。俺が」
「俺に行かせてくれ。スゥと一緒にだ」
ヌヌロッチが言いかけたタールツーのこと、というのが今になって気にかかる。
律儀なアンドロだから、ではなく、なにか重要な情報を伝えようとしていたのではなかったか。
ということを口実にして。
「そういうことだ。だから、隊長である俺が行くのがいい」
実際、東部方面攻撃隊の隊長だからといって、この群集を代表しているわけではない。
市民を前にして、隊長だから話せることがあるとは思えなかった。
「なにか、考えがあるのか。そんじゃ、任す」
パキトポークが折れた。
「性に合わないんだがな。ああいう連中を相手するのは」
群衆の中で喧嘩が始まり、隊員が鎮めようと躍起になっていた。
「頼んだぞ。一時間経って戻らなければ、捜索隊を」
ぐらりと眩暈がした。
「ん?」
「揺れたな」
眩暈と思ったものは、地震だった。
群集がにわかにざわついている。
立ち上がる者、叫びだす者。
「座って! 座ってください」
隊員が言い聞かせるように、それぞれのグループを纏めようとしていた。
「いざとなりゃ、こいつでも配るさ」
食料チップ。
さすがに三万人分はないが、少しは気分を和らげてくれるだろう。
「食ったことのある奴は少ないだろうがな」
「余計に混乱するんじゃないか?」




