189 くそ! はこっちの台詞!
ンドペキは、オーエンからイコマが聞いた話をした。
「で、ここに来たのね」
「ああ」
実際、あの人流から逃れることはできなかった。
波に逆らおうとすれば、多くを傷つけることになっただろう。
しかし、ンドペキは仕方なかったとは言わなかった。
己の意識の中に、ユウの元へという気持ちがあったのだから。
「すまない」
再び謝った。
スゥが目の前にいながら、ユウを追ってくるとは。
今となっては、なにをさしおいても、スゥの安全を期するべきだったと思う。
「許してくれ」
「許すも許さないも、ここへ来ざるを得なかったんだから」
イコマとの同期が切れたと話した。
「ノブねえ」
ユウのイコマへの呼び方。
懐かしい響きだが、今は後味が悪い。
あの洞窟で、イコマと初めて同期したときのように、違和感さえあった。
「なあ、スゥ。ユウは今、どこに?」
「シリー川のコロニーにいたけど、きっと今頃、ニューキーツ沖合いに沈んでるシップの中。どういうこと?」
「そうなのか……」
「あっ、そうか!」
「……」
「さっきのオーエンの話。パリサイドの女が二人、ベータディメンジョンで待ってるって。まさか、ンドペキ、それを」
「ユウだと思った……」
「はあ……」
なんという早とちりを。
「くそ!」
「くそ!はこっちの台詞!」
「だな。すまない」
「やれやれ。ま、仕方ない。あの状況で。ンドペキはノブなんだし」
もう二度と、イコマと同期しなくていい。
自分にはスゥがいる。
アヤちゃんも。
イコマの意識に振り回されるのは、もうごめんだ。
「アヤちゃん、いないかも」
「うむう」
無念だ。
こんなことになるなら、回廊手前で別れねばよかったが、後の祭り。
しかし、回廊で、アヤとはそれほど離れていなかったはず。
群衆に押し流され、この次元に出現したのなら、近くにいるのではないか。
むむむむむ。
唸ることしかできなかった。
アヤを残してきてしまったかもしれない。
これでよかったのか、悪かったのか。
しかし、家族。
やはり、どんな状況であれ、傍にいるのが喜ばしいのではないか。
結局、アヤはいなかった。
「参ったな」
「何が」
「東部方面攻撃隊。散り散りになってしまった」
パキトポークやスジーウォンの姿もない。
「まあね。でも、そのうち現れるかも」
「タールツー……、か。もう、どうでもよかったのかもしれない。太陽フレアが来て、カイロスが発動されて。ニューキーツの長官が誰かなんて、もう……」
ちっぽけなことじゃないか。
どうでもいいことじゃないか。
あそこで群衆を目の当たりにしたとき、そう判断すればよかったのだ。
そうすれば、人波に飲み込まれる前に、それを回避して街に戻ることができたかもしれない。
あるいはシェルタに引き返して、エリアREFに戻ることもできたかもしれない。
「俺の判断ミスだ」
「もう、どうでもいいことだって! 済んだハナシ」
「でも、アヤちゃんと離れ離れにならずに済んだ」
「だから、自分を責めても、意味ないよ」
「最後には、ニューキーツの街を殺傷マシンから守ろうと思っていたのに」
「へえ。そんなこと、考えてたの」
カイロスが発動すれば、街を防衛しているバリアはダウンするだろう。
そうすれば、荒野のマシン共が押し寄せてくる。
エリアREFであろうと政府建物であろうと、奴らが徘徊することになる。
いずれは地下の避難施設にも。
街を守れるのは自分達しかいない。
タールツーを追い詰めることができない場合、それしか自分達のすることはない、と考えてもいたのだった。
「もう、手も足も出ないな。向こうに残った奴がやってくれるだろう」
「隊長ねえ。いつまでもそんなことを考えるなんて」
「しかたないさ」
口ではそう言いながら、ンドペキは今なにをすればいいのか、を必死で考えていた。
もう、ベータディメンジョンに移行してきてしまったのだ。
今、ここでなにをするべきか。
どう行動すればいいのかを。
と、
「探しましたよ!」
肩を叩くものがあった。