188 ベータディメンジョン
人々がぎっしり立ちすくんでいた。
ンドペキは人波にもみくちゃにされながら、廊下を進んだのだった。
ユウのことしか頭になかった。
ユウの元へ。
「嫌だ! こんな所! 来るつもりなかったのに!」
女が叫んでいる。
「命が助かったんだぞ!」
と、男。
「まだ分かるか! そんなこと!」
「いったい、どうなるんだ!」
そんな声がして、また群集は静まり返った。
後から後から、人が湧いてくる。
いつの間にか、アンドロの次元、ベータディメンジョンに移行していた。
オーエンが言ったとおりに……。
「どこよ! ここ!」
また、悲鳴のような声があがる。
「アンドロの棲みか」
と、応える声。
「えええっ!」
「嫌よ!」
ンドペキは、隊員の誰とも通信が繋がらないことを知った。
そして、いつの間にか、イコマとの同期も切れていた。
「スゥ」
スゥだけは常にそばにいた。
「すまない。こんな所に来てしまった」
「ううん。いいのよ」
何もない空間。
ただただ灰色に包まれた空間。
霞んだ空気。
床は確かにある。
硬い金属質の床。
どこまで続いているのかもわからない。
暗くはない。
むしろ明るい光に満ちている。
とてつもなく大きな建物の中なのか。
灰色の中に時折、虹色の光が見え隠れするが、それがすぐ近くなのか、数キロ、あるいは数万キロ先なのかも判然としない。
呼吸に問題はない。
ただ、なんとなく息苦しい。
空気の密度が高いのか、組成が異なるのか。
体は重い。
地球より、重力が強いのか。
しんとしている。
鼓膜が空気の密度に圧迫されている。
耳鳴りがする。
静けさに耐えかねたように、「誰か……、助けてくれ……」という呟きのような声が上がった。
それにつられてすすり泣く声が。
「アヤちゃんは?」
「見えないね」
「探そう」
「うん」
スゥの手をとった。
ここではぐれてしまうわけにはいかない。